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ダム底の燕
夕刻。台所で蛇口を捻り、桶へと雪野は水を溜める。
「何をしている雪野。料理の練習なら早々に諦めた方が世の為身の為だぞ」
『ち が う!』
通りがかった斑に怒りを覚えながら、桶に水が溜まったのを確認し蛇口を閉める。
『貴志くんが貧血で倒れたみたいだから、タオルを準備するだけだよ』
北本達と釣りに山奥のダムまで行った筈の夏目だが、暑さにバテたのか倒れ、ここまで担がれて来たのだ。
「なに?ちょーっと外に出るとそれか。どれ、私が様子を見てこよう」
『寝てるんだから邪魔しちゃダメだよ』
トコトコと丸っこい体を動かし台所を出て行く斑に雪野はため息し、桶を手にゆっくりと歩き出す。
「ご免くださーい」
階段に足をかけたところで、玄関先から客の声が。足を止めた雪野は桶をその場に置くと、はーい、と返事をして引き戸を開けた。
開けた先には、明らかに妖怪の類のモノが。しかも四ひき。
「その顔立ち、鈴木殿ですね?名を返して頂きたく参りました」
『………(なんか数が多い)』
驚きはしないが呆気にとられていると、後ろでうわあ!?という声とばしゃん、と水が跳ねる音が。
『きゃーーーー貴志くん!?』
「な、なんで桶が…」
「だから言っただろう前を見ろと」
起きたらしい夏目は雪野が置きっ放しにしていた桶に躓きびしょ濡れに。
『ごめ…』
「夏目殿ですね?」
雪野の隣をすり抜け、床に座り込む夏目へと一ぴきの妖怪が、ふわりと近寄った。
「我々は村と共に水底で眠っておりましたが、また水が張る前に名を返して頂きたく参りました」
「水底?お前達、あの干上がったダム底の村に住んで…?」
「はい。水が張ると簡単には地上に出られません故、干上がっている隙に静かに眠る為にも名を返して頂きたく」
押しかけさせて頂きました。
きっぱりと申し訳なさなど皆無で言った妖怪に、夏目と雪野はがく、と肩を落とした。
濡れた服を着替えた夏目は押しかけた妖達へと名を返す。
「…つかれた……」
返し終わった頃には、外は真っ暗だった。
「馬鹿者。素直に返しよって!また友人帳が薄くなったではないかっっ」
「夏目殿、鈴木殿、ありがとうございました。お礼に私の魔境でお見せ致しましょうか?」
「ん?何を?」
「夏目殿に何か取り憑いておりますよ」
畳へ倒れこんでいた夏目は、妖怪のさらりとした言葉に顔を強張らせた。
「……え?取り憑…………?」
起き上がり、魔境を見つめる。雪野の背後には部屋が映るだけだが、夏目の背後にはニタリとした笑みを浮かべる女らしき姿が映っていた。
「『ーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!』」
「やはり憑かれていたか。妖怪くさいと思った」
声にならない悲鳴を上げる夏目と雪野。
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