偽りの友人【前編】
「ーーーーケーキですか?」
「そうなの。滋さんの誕生日だから帰りに買ってきて欲しいの」
朝、塔子は夏目と雪野にそうお願いする。
「いいですね。どんなケーキがいいですか?」
「お誕生日っぽく生クリームがいいかしら。白くてきれいなショートケーキを、四つお願いね」
「『はい』」
塔子に笑い返して、玄関先へと向かった夏目と雪野を待ち構えていた斑。
「五つだ」
当たり前のように斑が告げる。
「ネコは甘いもの食べちゃいけないんだぞ、ニャンコ先生」
「猫ではない!スイーツを愛する招き猫だ!」
『招き猫はそもそも食べないよ』
しかし買わなくてはいつまでもネチっこく言うだろうと、結局は買うことにした。
『貴志君、私今日委員会があったから、ケーキ頼んでもいい?』
「ああ、わかった」
申し訳なさそうに頼んだ雪野に夏目はうなずき返すもあっと思う。
「雪野、ケーキ屋ってどこにあるんだ?」
『え?えーっとね…』
教えてもらったケーキ屋に西村と北本と夏目は行ったが、ファンシーなお店に男三人は店前で悩んだ。
「それじゃあ、明日からこのローテーションでお願いします」
返事があがり、一斉に席を立ち始める。雪野も教室へ向かいリュックを背負って帰り始めた。
『(貴志君、ケーキ買えたかな)』
後から思うと、男だけでケーキ屋は辛いんじゃないだろうか。
日が沈む空を眺めながら、申し訳なくなり雪野はため息を。
「雪野」
ん?と後方からの声に足を止め振り向いた雪野は目を丸くした。
『貴志君?』
「今帰りか?ずいぶん時間かかったな」
『こっちのセリフだよ。ケーキ買うのにどれだけ時間かけてるの…』
「ああ、いや、ちょっと色々あって…でもほら、ケーキ。ちゃんと買えたよ」
言葉を濁す夏目に雪野は何かあったのかと見つめていたが、笑った夏目にため息まじりに笑い返した。
「おかえりなさい…おそかったけど大丈夫?無理言ってご免なさいね」
「いえっ。ーーーーこのケーキで大丈夫ですか?」
「まぁきれい。ありがとう」
『美味しそう』
嬉しそうに笑う塔子や雪野に夏目はほっとした。その夜、帰ってきた滋と一緒に食後にケーキを食べた。
「お、うまいな」
「貴志くんがね、買ってきてくれたのよ」
「た、誕生日おめでとうございます」
『おめでとうございます、滋さん』
「ーーーー…ありがとう貴志、雪野」
微笑んだ滋に、夏目と雪野も穏やかに笑い返した。
『ただいまー』
「おかえりなさい雪野ちゃん」
出迎えた塔子に笑顔を返した雪野は、おや?と玄関を見下ろす。
『(貴志君まだだったんだ)』
ーーーー先に帰ったと思うんだけど…?
目を瞬かせながら、おやつを用意する塔子に返事をして雪野は靴を脱いだ。
next.▼ ◎