×
「#寸止め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


2


はっと雪野は目を開ける。

ーーーーカッ.



「ぎゃっ!」



雪野の腕の中から飛び出した斑が、光を放ち妖を払う。



「そろそろ、本気で奴を黙らせてやってもいいんだぞ雪野」



驚きを見せている的場をちらりと見つつ斑は言う。



「こういう半端に力のある奴に加減するのが面倒なのだ」

『先生!』

「こんな所にもう用はない」



立ち去る気配に的場がもう一度札を投げる。



「何度もくらうか」



ーーーーどん!

放たれた光に札は弾かれ、あまりの眩しさに目の前にやっていた腕を的場はおろす。



「ーーーーちっ」



思わず舌打ちが。



「また逃げられましたね」



大きく壊された窓を見て残念そうに的場は呟いた。

ーーーー無事、なんとか的場の別邸から斑に乗って逃れた雪野はほっとする。



『ありがとう先生』

「まったく。用心棒をかばう奴があるか」

『先生は友人帳のついでだよ』

「何だと!?」

「ーーーー友人帳には、子分共の名が書いてあるのだろう」



クスクスと笑っていた雪野は手元の壺を見下ろす。



「人にとって妖など霞だろう。それを守って何になる」

『ーーーーさあ、何になるんだろうね』



目を伏せる雪野。



『でも、大切なものだから…だから、体が動くんだよ。勝手にね』

「あっ。その壺、お前いつのまに」



斑が壺の存在に気付き目を吊り上げた。



「どさくさにまぎれて拾ってきたな。すててしまえっ」

『ふふ。そうだね、じゃああの辺にでも捨てようか』

「よしきた」

「ぎゃーーーー!鬼ーーーー!人でなしーーーー!」



本当に下降していく斑に叫ぶ壺は涙声だった。地面に雪野は降り立ち、斑も依り代姿へと戻る。



『ーーーーとまあ、冗談はこれぐらいにして』

「じょ、冗談?」

「当たり前だ。お前には夏目の居所を案内してもらうのだからな」

『ーーーーお願い、貴志君を返して』



ぎゅ、と壺を握りしめ懇願する雪野を、壺の中から妖は見つめた。



「ーーーーこっちだ」



壺の案内で、雪野と斑は森の中を進む。



「…鈴木、お前の言うとおりかもしれん」



ん?と歩きながら雪野は壺を見下ろす。



「ーーーー…確かに…お頭様は、多くの妖を操るなど…人の子をさらい、友人帳など持ち帰れば、悲しい顔をなさるかもしれん」



壺の声は沈んだものだ。心境の変化があったらしい壺に、雪野が何か言葉をかけようかと考えた時だった。



「いたぞ!」



ビクッと、進めていた足を止める。



「いたぞ。鈴木だ、友人帳をよこせ」

「…ああ、あの壺は」



茂みの向こうから、猿面達が現れ…雪野達は囲まれてしまった。



「おのれやはり、忌々しき的場の仲間か」

『!違う!』

「そうだぞ!不本意ながらこいつが私を奴の下から…」

「おのれ!」

「おのれ人間め!」



雪野どころか、仲間の声すら聞こえてない猿面達が敵意を雪野へ向ける。

ーーーーぐいっ.



『あ』



背後からリュックを捕まれ、慌てて雪野はリュックを取られないよう握りしめた。



『っ…やめて、それを乱暴にあつかわないで』

「我らに命令するか」

「なまいきな、黙らせろ」

「やめろ。やめろ、鈴木は私を助けてくれたのだ!」

「おのれ、人間め消えろ」

「災厄のもとめ」



ーーーードクン.

思わず、雪野は反応してしまう。



「いったいどれほど災いをもたらせば気が済むのだ」

「お前など消えろ」

「消えてしまえ…」



ーーーーゴッ.

一陣の風が吹き抜け、その場が静まる。本来の姿へと戻った斑は、雪野を口に咥えたまま猿面達へと目を寄越す。



「ああ、消えてやるさ。こいつも、友人帳も、夏目も、あるべきところへ帰るのだ」



斑に咥えられたまま、雪野は呆然と猿面達を見下ろす。



「仮にも私はこいつらの用心棒。次にまた手を出すならば、お前らの敵は祓い人でなくこの私。いつでもかかってくるがいい」



一度目を瞬かせ、ゆるりと、雪野は斑へと視線だけを動かした。



「ーーーー雪野!先生!」



はっと、聞こえてきた声に雪野は顔を上げた。

ーーーーしゃんしゃんと、鈴の音が近づいてくる。



「そこまで」



一際大きく鈴の音が響くと、そこに現れたのは三篠だった。その頭には、二つの影。



『ーーーー貴志君!それに三篠…と、誰?』

「…あ」



夏目の隣にいる妖には、猿面達が反応した。



「お頭様…!」

「ーーーーやれやれ。夏目殿に話を聞いてきてみれば…何をしているお前達。勝手なことを…」

「お、お頭様…」



お頭様は、雪野達へと近づき足元の壺を見下ろした。



「ーーーーどうやら、うちの者が助けてもらったようだ。こやつらの無礼をお許し頂きたい、夏目殿、鈴木殿。私の力不足がこやつらを不安にさせたのでしょう」

「ち、ちがいますお頭様」

「我々はただ、何とかお頭様のお力になりたくて…」

「夏目様ーーーー!」



ん?と夏目は振り向く。



「夏目様ご無事ですか!?」

「おのれ東方の猿どもめ。夏目様や鈴木様をこの八ツ原の恩人と知っての狼藉か!?」

「ヒ、ヒノエ、中級…」



ヒノエが鎌を持って凄まじいオーラを放つものだから少したじろぐ。



「しばしお待ちを夏目様。今命の水(酒)を飲みまして鬼神となってお助けしますぞ」

「もやし共相手に集団とは!!ヒキョーだぞ!!」

「いざいざ!尋常に勝負!!」

「わーーーーよせ!!ありがたいが丸くおさまりかけているんだ!」



慌てる夏目の背後で雪野は一気に賑やかになり脱力し、斑は不愉快そうに目を吊り上げていた。



「クスクス」



楽しそうな笑い声に振り向くと、お頭様だった。



「夏目殿よ。お二人には、友人帳を使わずとも動いてくれる妖がいるのですね」

「ーーーーはい。友人なんです」



お頭様へ真っ直ぐに目を見つめて頷いた夏目に、心配せずとも夏目は夏目で動いていたのだと、雪野は安堵して微笑んだ。




prev next