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「まぁ、お茶でもどうぞ」
ぶすくれた顔のまま向かいに座る雪野に的場は気にせず笑いかける。
「大丈夫ですよ。毒なんか入っていません」
『(嘘くさ!!)』
全然信用できなかった。
「随分苦労したようですね、鈴木雪野さん」
居心地悪く俯いていた雪野は、驚きに面食らい顔を上げた。
『…名前…私、教えて…』
「七瀬から少年の名を聞いていたので、少し調べればすぐわかりました。少年の名前は、夏目貴志君でしたね」
膝の上で、ぎゅ…と雪野は手を握り締める。
「ーーーーあなた方のおばあさまも、妖を見る人だったのですね。縁があるのでしょうかね…同じような境遇の二人が、一つ屋根の下で暮らすとは」
『…悪趣味、ですね…勝手に人のこと、調べるなんて』
「ですが、あなたが話す手間もこれで省けましたよ」
ギクリと、思わず雪野は顔を強張らせ身構える。
「君の理解し難い言動は近所でも有名だったようですね。事あるごとに不幸の原因は君だと決めつけられ、災厄の子供だと近所から、親戚から、そして、実の父親からも言われ続けたそうで。お父様が亡くなられてからはお兄さんと二人暮らしだったようですが、そのお兄さんともあまり折り合いはよろしくなかったそうですね…しかし、お兄さんもご立派だ。災厄の種を一人で抱え続けたのだから」
的場が話すたびに、雪野は握り締める手に力を込め、唇を噛み締めた。
「ーーーー無理解な人間と共に生活するのは、さぞきついことでしょう。その点私は幸いでした。祓い屋の家に生まれたのですから。今預かってくれてる藤原ご夫妻は、君達を理解してくれていますか?」
ーーーーガタン.
塔子達の名前が出た瞬間、雪野は限界になり立ち上がった。
『関係ないでしょう!帰ります』
「待て小娘。頭首様はまだお話の途中だぞ」
立ち去ろうとした雪野に見張りの妖が肩を掴む。
「大人しくしていろ」
『!』
ーーーーゴッ.
「ぎゃ!?」
風と共に掴みかかっていた妖の手が放れ、はっと雪野は目を開ける。
『!先生…』
本来の姿の斑は妖を引き放すと雪野の傍らに着地する。
「調子にのるなと言ったはずだぞ、祓い屋の小僧。道をあけろ」
獣特有の唸り声をあげながら斑は的場を威嚇する。
「我らは帰る」
威嚇する斑に、的場は余裕そうに笑みを浮かべていた。
『先生…』
ほっとした雪野は斑の尻尾にリュックが引っかかっているのを見てぎょっとした。
「ーーーーおや、やはり猫も一緒でしたか。ということは少年も…どこにいるんです?」
的場の背後に式が控える。
「いくぞ雪野」
『うん!』
答える義理などなく、早々に立ち去ろうとしていた斑へ的場が何かを飛ばした。
ーーーーびたん.
「ぎゃっ!」
『先生!?わっ…』
斑に人形の札が飛ばされ、喰らった斑は招き猫の依代姿へ戻ってしまった。
「色々調べてみたのですが、ただ美しかった、強かったと噂ばかり。なかなか情報が少なくて」
床に倒れ込んでいた雪野ははっと顔を上げる。
「ぜひとも聞かせて頂きたいのです」
膝をつき見下ろす的場を雪野は睨みつける。
「噂の鈴木ミヨとは、どういう人だったのかを」
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