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3


『聞こえた話だと、桐の間っていう部屋に私の荷物は置いてあるって』



怪しげな部屋を出て友人帳を雪野と斑は探しに行く。



『早くとりもどして貴志君を助けに行かないと』

「ああ。しかし迷路のように出口もわからん屋敷だな」



ふと、雪野は思った。



『ーーーーあの人はこんな所に住んでるんだね…』

「いや、どうやらこれは別邸のようだ」



え?と雪野は隣を走る斑を見下ろす。



「三篠の話だと東方の森には、忌々しい祓い屋、的場家の別邸があり、ずっと以前はよくそこを拠点として妖を狩ったらしい。しかし祓い屋家業自体が廃れ、ここもあまり使われなくなっていたらしいがーーーー今回のご頭首は、なかなか精力的なようだ」



妖を狩る…。的場に捕まった猿面と、夏目を捕まえた猿面達を思い出す雪野。



『もしかしてさ』



口を開いた雪野を斑は見上げる。



『あの猿面達が友人帳を狙うのは…自分達のために、戦うために…だったのかな』

「ーーーーふん。だからと言って、私のエモノを横取りしていいことにはならんぞ」

『そ…だから、エモノはやめて』



ーーーー…カタ.カタタ.



「む?」



聞こえてきた物音に気づき、走り去ろうとした足が止まる。振り向くと、棚の上に小さな壺が。



『この壺…さっき猿面の妖が封じられた…』



その壺が、微かに揺れて音を出していた。



「うう…出られぬ。うう〜〜〜おのれ…」



壺から聞こえた呻く声。



『わぁ。壺がしゃべった!?』

「む?その声は…」



驚き不気味で雪野は斑を抱きしめるが、壺は雪野の声に何かを考えた。



「おい鈴木の小娘、とりひきだ」

『は…とりひき?』

「私はこの屋敷に一度忍びこんだことがあるから、多少は案内できるぞ。出口への道を教えてやるから私も連れていけ」



訝しそうにしていた雪野は取引内容に僅かに顔をしかめた。



『信用できない。お前達は貴志をさらった相手だし』

「まったく。うたがい深い下等生物め。わ」



ちょいちょいと、斑が横から不愉快そうに壺を前足で引っ掻く。



「わ、やめろ、小ブタ!」

『先生、落として割らないでよ』



しかし止めない雪野。



「ーーーーでは手はじめに、桐の間とやらがどこにあるか言ってみろ」

「桐の間…?ああ」



斑の問いに壺はすぐにその場所を思い出した。



「忌々しい的場家頭首用の部屋か」

『!わかるの?』

「ああ、大体な」

「よし、では道順を言ってみろ。私が確認してくる。正しければ脱出する時お前も連れてってやる」

『先生』

「私がとってくるから、お前はこいつと隠れていろ。罠のある部屋だと厄介だからな」

『ーーーーわかった。気をつけてね』



雪野へ壺を手渡し、斑は壺から聞いた道順を辿って走り出す。壺を受け取った雪野は手近な部屋へと隠れて一息つく。



「…くしょう。ちくしょう。うう」



ブツブツと、呟く壺の声に雪野は壺を見下ろす。



「友人帳があれば。きっと。きっと。お頭様が友人帳で力を持てば…お頭様ならきっと。きっと森をもとのように…」

『……ーーーー友人帳はそんな都合のいい道具じゃないよ』



つい雪野は口を出す。



『森をどうにかしたいのはわかった。でも貴志君を襲って、友人帳で妖達を操るなんて…それは、的場さんと同じようなものだと、私は思うよ』

「ーーーー…」



雪野の言葉に口を閉じて考えていた壺は、雪野の背後を見た。



「…あ」

『え?』



不思議そうにする雪野の背後の襖が開かれた。



「お久しぶりですね」



背後から伸びた手に手首を掴まれ、聞こえた声に雪野は目を見開いた。振り向けば、薄く笑みを浮かべてこちらを見下ろす的場が。



「君は確か…以前、あの少年と一緒にいた子ですね」



あの少年に、すぐに雪野は夏目の事だと察して掴まれた手を引こうとする。



『…は、放して』

「放せば逃げるでしょう。こっそりあがりこんでくるなんて、まるで猫か妖のようですね」

『好きで来ません…そっちの妖が、無理に連れこんだんですよ』

「おや、それは失礼しましたね。けれど丁度よかった。あの少年とお話がしたいなと思っていたのですが、君と話すのも面白そうだーーーーそういえば、今日は一緒ではないのですか?少年と、猫は」

『ーーーー…』



答えるはずもなく、警戒する雪野に的場は嘘くさい笑顔を浮かべていた。





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