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追手から逃れるべく不規則にあちこちを走り回ったり隠れたりしていた雪野は、背後を伺いほっと走るペースを緩めた。



『(まいた。広くて助かった…)』



油断するのも束の間。はっと前方を見ると、曲がり角から見張り役らしい妖の姿が。



「ん?何やら人の子の匂いがするような…」



気付かれそうになり、雪野は手近の部屋へと入り込む。

ーーーーぱたん.

ほっ…と、やっと一息ついて顔を上げた雪野はギクッと顔を強張らせた。顔を隠した人形、市松人形のような風貌の人形、壺、棺などが幾つもその部屋にはあった。微かに空気が重い。



『(うわ…なにここ…さすが祓い屋)』



ぞっと背筋が冷たくなり、早く斑を探そうと外の様子を見ようとした雪野だったが、何か、カタカタと音が聞こえた。



「う、う…」



ビクリと顔を青ざめて振り向くと、ゴミ箱から呻く声が。



「う…」



何かと恐怖よりも好奇心が勝りそっと近付くと、紙の中に頭から埋もれる短い足と尻尾が。



『わーーーーっ。ニャンコ先生っぽいものがゴミ箱に捨てられてるーーーーっ!?』



見つかるわけにいかず小声で驚愕しながら雪野は慌てて斑を抜いた。



「ふう、ひどい目にあった」



助け出した正体はやはり斑だった。



「捕まり袋に放り込まれたものの、頭の悪そうな妖だったから招き猫のふりを通したのだ。そうしたらあの小物め、この私をゴミ箱に放り込んだのだ!」

『ぷっ』

「笑いごとか阿呆ーーーー!!」

『うぐっ!』



笑った雪野に斑が渾身の猫パンチを。



「まったく。あんな小物に捕まり友人帳まで没収されるとは何たる様だ!!」

『…ゴメンナサイ…』



返す言葉もなく素直に雪野は謝る。



「ーーーー幸いまだリュックの中身は調べられていないんだな」

『たぶん…でもどうしよう、もしもう見られてたりしたら』

「まぁだとしても、友人帳の知識がなければただの落書き帳にしか見えんだろう」



確かに初めて見たときは落書き帳かと思ったと雪野は思い出す。



『でも、祓い屋の的場さんの耳になら友人帳について多少は入ってるんじゃないかな』

「伝説のような噂くらいはきいた事があるかもしれんな。しかし妖は少なくとも、知られてはならぬ相手に話してはならぬという本能的なものは持っている。むしろ、人の口から人の耳に入ってしまうことはあるかもしれんと、それを恐れてお前や夏目を狙ってくる妖もいるのさ」



斑の言葉に雪野は軽く目を細めた。



『…そうだね、名取さんにも話さない方がいいってことか。巻き込んじゃうかもしれないし…』

「あいつは考えんでも見るからに話してはならぬ相手なオーラ全開ではないか」

『うーん…』

「あんな厄介な友人帳など、さっさとこの私に譲ってしまえばいいのだ。私が面白おかしく使ってやる」



ん?と目を丸めていた雪野は、答えることなくふっと斑に笑い返すだけだった。



「…笑いごとか阿呆」





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