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東方の森【中編】







ーーーーギリ…

何かが軋むような物音と自身に感じる違和感に、雪野は失っていた意識を取り戻した。



『!あ』



目を覚ますと、的場の式が手首の縛った縄を括り付けているところだった。



『放せ!』

「!………………」



固定される前に式を蹴りつけて雪野はすぐさま立ち上がる。



『(ここ、どこ!?)』



大焦りで辺りを見渡すと、木製の格子と冷たい石造りの壁に囲まれた場所で、恐らく座敷牢だと雪野は複雑な心境。



『(この現代に座敷牢に放り込まれる日が来るなんて)』



うわー…と青ざめていた顔からふと、軽い背中に気づき血の気を引かせた。



『(ーーーーリュックが無い…!)』



リュックの中には、友人帳が入っている。大失態と友人帳の行方に雪野は真っ白になっていたが、式の手が伸びてきてはっと我にかえる。

ーーーーばたんっ.

牢の外へと逃げ出しすぐさま戸を閉めて式を閉じ込めると、雪野は走り出した。



『(ーーーーニャンコ先生!)』



ーーーーニャンコ先生はどこ!?

恐らく斑も的場に捕まったのだろうと、まずは斑を探して地下から上がる。



『(早く見つけて…貴志君を助けなきゃーーーー…)』



長い廊下を真っ直ぐ、時には右へ左へ、開いている部屋を覗いて、しばらく走りたどりついたのは階段下のスペース。



『(広!!)』



走り回って体力の限界に、隠れるようにして座り込む。斑も友人帳も見つからず、夏目の安否も気がかりで心折れそうになった時だった。



「…ですか?」

「はい……です」



はっと、雪野は身を固くした。階段の軋む音…すぐ上を、人が下りてきている。



「表を見張らせていた奴が何か捕まえたようです」

「ほう」

「ーーーーそれがどうも少女のようで…普通の人間がこの屋敷に近付くことは難しいはずなのですが」

「ーーーーほう」



ゆっくりと、軋む音が下へと向かい近付く。



「面白いですねぇ」



クリアに聞こえてきた聞き覚えのある声に雪野は息を呑んだ。



「どこです」



ーーーー的場さんーーーー…。

一番会いたくない厄介な相手に雪野は、思わず震える手を握りしめた。



「西側の牢に放りこませてあります。持ち物は桐の間に運んでおきました」

「ーーーー西牢か。では、その少女とやらに話を聞きに行きましょうか」

『ーーーー!』



持ち物は桐の間。その言葉に雪野は、友人帳ももしかしたらそこにと推測していたが…。



「ーーーーおや?階段の下に何かいますね」



はっと、的場の呟きに雪野は顔を青ざめる。実は、壁にかかっていた鏡に姿が映っていたのだ。

ーーーーギシ.

的場がこちらへ来る。



「何者です?」



咄嗟に雪野の目に入ったのは、箱の上に無造作に置かれた着物。



「さあ出てきなさい」



ーーーーばっ.

的場に姿を見られるより先に飛び出した雪野は、着物を頭から羽織り顔を隠し、的場を押しのけるようにして逃げ出した。



「!何者!?侵入者か」



男がすぐさま指笛を吹く。



「あれを追え!」





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