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3


『ーーーーでも、この森なんか変な感じがするし…札とかあちこちに貼ってあったよ』

「ーーーーああ。どうやらあちこちに罠があるようだ」

『…罠…?私や貴志君を捕まえるために?』

「ーーーーいや、これは…とにかく早く夏目を見つけて、この森から離れるぞーーーー気付かないか?」



斑の表情がわずかに強張る。



「ーーーーこの森に感じる気配はーーーー…」



張り詰める緊張感の中、斑が先を続けようとした時だった。



「いたか?」



ビクッと、聞こえてきた声に雪野と斑は息をひそめた。



「ーーーーいや。こざかしい、隠れたか」

「チッ。探せーーーー…ん?おい、あれは何だ」



その場に立ち止まった猿面達に身を潜めつつ様子を伺う。



「何かこっちへ来る…まずい、みんな逃げろ!」



突然切羽詰まった声を出した猿面に何事かと、雪野と斑は藪の隙間からこっそりと覗き見る。



「あいつが、あいつが来る!あいつが……」



ーーーーゴオ.

頭上を過ぎ去った黒い影に雪野は目を見張る。



「ぎゃ!」

「!」



黒い影は猿面達に襲いかかり、一匹を捕らえた。



「っくそ、一旦退け!」

「逃げるぞ!」



仲間が捕まり悔しそうにしながらも、猿面達はその場から一度離脱した。



『(ーーーー何、今の…)』



一瞬のような出来事に何が起こったのかと困惑しつつ雪野はよく見ようと目を凝らし、はっとした。

黒い影は一匹を包むと壺の中に消えた…その壺に、雪野は見覚えがあった。そして、その壺を手に薄く笑みを浮かべる人物にも。



「ーーーーさて、こいつはちっとはつかえるかなあ」



その声にも、聞き覚えがあった。長い束ねた髪を靡かせる後ろ姿に、雪野は恐怖に近い何かを感じて鼓動を速めていく。

ーーーーあの人はーーーー…。



「的場」



くるりと、声の方へと振り向いたのは間違いない。



「どうでした」



以前、夏目や名取と共に追いかけた、的場一門当主、的場静司だった。



「ああ。一匹つかまえた…」

「つかえそうですか」

「しっ」



同じ一門の者らしい男に静かにするよう言うと、的場は雪野達の方へ顔を向けた。



「ーーーーあのしげみ、何かーーーー…」



気配を感じ、的場は歩み寄ると茂みへと手をかけた。

ーーーーガサッ.



「ーーーーおや」



茂みの向こうには誰もいなかった。



「気のせいか」



一歩早くその場から逃げ出した雪野は必死に走っていた。大した面識もない相手だが、友人帳の存在を知られてはならない相手だという事だけは前回の事で深く理解していた。

ーーーーあの人はいやだ。



「ちっ。どうやらこの辺りに罠をはったのは奴のようだな」

『!』

「気をつけろ。ひょっとしたら人にも効く罠かもしれん…くそ。本来の姿にとどればひとっ飛びで逃げれるが、奴に気付かれる…」

『ーーーーうん…とにかく、早く貴志君を助けなきゃ。あの人がいるならなおさら…』

「…ちっ。三篠の話は本当らしいな」

『え』

「この辺りにはーーーー!」



ーーーーガザッ.



『!』



不自然な草の揺れる音にはっと雪野は振り向いた。たった今まで一緒に走っていたはずの斑の姿がどこにもない。



『先生!?ニャンコ先生!?』



大慌てで雪野は斑を探す。



『先生、どこに……』



藪を抜けた雪野は、おや?と足を止めた。目の前には、大きな門構えの屋敷があった。廃屋だろうかと、何の気なしに眺めていた雪野ははっと気づく。表札には、的場という字があった。



『(ここはーーーー…)』



まずい場所に自ら来てしまったと、気づいた時には遅かった。



『うわぁ!』



背後から伸びた黒い手に、雪野は捕まった。





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