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「祭り?」
「ああ、次の土曜なんだ」
翌日、田沼とタキに祭りの誘いの話をした。
「いいな行きたい」
「私も。丁度昨日、雪野とその話をしてたの。ね?」
『うん』
「…でも、三人共大丈夫?」
妖を感じて見ることのできる三人にタキは気がかりで尋ねた。
「一応、先生もイカを食べに来るから、小物な妖は近付いてこないと思う」
「先生も来るの!?」
『ふふ。楽しみだね』
「だな。祭りってあまり行かなかったからなあ」
「おれも一度じっくり回ってみたかったんだ」
お祭り初心者四人組は、お祭りでやりたいあんなことやこんなことを夢見る。
「あ。でもすまないが、おれ達は行けなくなるかもしれないから、その時は西村達を頼めるか?」
申し訳なく思いながら夏目はタキと田沼にそう頼む。
「え?…また何か妖がらみか?」
「ああ。少し気になることがあって」
「夏目ー。鈴木ー。教室移動だぞー」
「あ。じゃあな」
『透、今日は先に帰ってて。私先生に頼まれごとがあるから』
「ええ」
ぱたぱたと小走りに西村へと夏目と雪野は駆け寄った。
「お前またタキさんと!」
「祭りに田沼とタキも来るってさ」
「ほんとか!?」
『分かりやすいよね西村君』
賑やかに教室を移動し、昼休みも過ぎて午後の授業を終えて、放課後。
『ーーーーふー』
どさりと、ノートの束を視聴覚室へと運び終え雪野は疲れた腕を解す。
「助かったよ鈴木。係りのやつが今日欠席でな」
大きなダンボールを運びながら教師は眉尻下げて笑う。そんな教師に雪野も笑い返した。
『いえ。これで最後ですか?』
「ああ、ありがとな」
『それじゃあ』
「気をつけて帰れよ」
手伝いも終えて教室に戻ろうとした雪野は、西村と北本と廊下で鉢合わせた。
「あ、鈴木。用事済んだのか?」
『うん。二人は今帰り?貴志君は?』
「それが、急に顔色変えたかと思ったら急いで帰ってってさ」
西村の不思議そうな説明に雪野は面食らった。
「どうしたんだ?」
「さあ…なんか顔色も悪かったから、具合でも悪かったのかな…あ、鈴木これから帰りなら一緒に…」
『ごめん先に行くね!』
「え、鈴木!?」
走り出した雪野に二人はぎょっとする。
『あ。貴志君は貧血!朝から体調悪かったから多分!』
「え!そうなのか!」
走りながらそう伝えた雪野に西村は驚き納得。リュックを背負いながら走る雪野は、昨日夏目が妖から逃げてきた辺りの森へと入り込んだ。
『(貴志君に何かあったんだ!)』
息を切らしながら急いで夏目を探していた雪野は、ガサリと藪の揺れる音に足を止めた。
『たか…』
夏目かと、そちらへ向かった雪野は目を見張った。すぐ目の前に現れたのは夏目ではなく、猿面の人々…ではなかった。
「お前、我らが見えるのか?」
固まっていた雪野は妖だ。とはっと気づく。
「ーーーーもしかして、あの小僧の仲間じゃないか?」
『!貴志君を連れ去ったのはお前達!?』
「タカシ…?」
「そういえば友人帳の持ち主には「鈴木」という少女もいると聞いたぞ」
「ならばこの小娘が…」
ざわめく不穏な空気に、はっと雪野は身の危険を感じゆっくりと後退る。
「あっ」
踵を返し逃げ出した雪野に猿面達はすぐさま追いかけた。
「捕まえろ!!」
そんな声が背中に聞こえて走るスピードをあげた雪野は、木々や藪の隙間を撒くようにして走り抜ける。
『!?』
逃げながら、森のあちこちにお札が貼ってあることに気づく。ただの森ではないのかと、少しばかりぞっとした雪野は目を背けた。
ーーーーガザッ.
『うわ…』
何かに藪の中へ引きずりこまれた。
「しっ。静かに」
『!ニャンコ先生』
引きずり込んだ正体は斑だった。
「ーーーーまったく。ちょっと目をはなせばお前達はこれだ。三篠の話が気になって様子を見に戻ってみれば…」
『ーーーーごめん…』
「夏目はどうした?」
『猿面の妖達に連れ去られたみたいで…』
「何!?あんな数に物言わせるような連中に私のエモノを横取りされるのは不愉快だ!」
『エモノ言うな』
憤慨する斑を雪野も不愉快そうに睨む。
「友人帳は今日はお前が持っていたな?」
『うん。昨日のこともあったから』
友人帳が入っているリュックを雪野は軽く叩き、不安そうに俯いた。
『貴志君、大丈夫かな』
「いわば人質状態だからな夏目は。ひとまずは大丈夫だろう」
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