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東方の森【前編】







ちらほらと見かける、チラシを持って楽しそうに話す人達を横目に雪野は首を傾げた。



『なんか賑やか…何かあるのかな』

「ああ。夜祭りね、もうそんな時期かあ」



一緒に帰っていたタキはしみじみと呟く。



「確か、次の土曜日じゃなかったかしら」

『へえ。透は行ったことあるの?』

「小さい頃おじいちゃんに連れて行ってもらった以来よ。そういう機会がなかなかなくて…雪野は?」

『私もお祭りはあまり…興味無いわけではないけど…』



ーーーー夏の夜は、妖が活発になる。それを危惧して今までは雪野も行かなかったが…。



『(…透とか、誘ったら一緒に行ってくれるかな)』



ちらりと、タキの横顔を雪野は見る。しかしなかなか口に出して誘えずにいると、タキが視線に気づいた。



「なに?」

『う…なんでもない』

「そう?あ、それじゃあ私こっちだから」

『う、うん』

「また明日ね」

『また明日』



手を振るタキに雪野も手を振り返し、そしてため息。



『(うう…友達を誘うだけでもハードルが高い)』



ーーーー誘ったことも、誘おうと思ったこともないからな…。

幼少期からの自分を思い出して憂鬱になり、また深くため息をついた雪野は不自然にできた地面の影に足を止めた。



『(なに、この影…木の上に何かいる?)』



そろりと見上げて、目を点にさせた雪野。驚きよりも疑問が勝り、雪野は口を開いた。



『ーーーー貴志君、何やってるの?』

「…いや、ちょっと妖に…」



木の枝にだらりと引っかかっていた夏目は気まずそうにして答える。その隣には斑の姿もあった。



『え…妖に襲われたの?大丈夫?』

「ああ、先生が来てくれたからーーーーありがとう。助かったよ先生」

「まったく。せっかくのホロ酔い気分がふっ飛んだわ」

「…何明るいうちからアルコール入れてるんだよ用心棒」



呆れて雪野もため息。



「…奴ら何者だ?友人帳めあてか」

「ーーーーたぶん。でも、あんなに一団で来るなんて…」

『一団って…』



少し顔を青ざめ口元を引きつらせた雪野。夏目も、友人帳が狙われることには慣れていたが、今回のはさすがに背筋が冷えた。



「この周りでは見ない連中だったな」

「…やっぱり祭りに行くのはやめたほうがよさそうだな」

『祭りって、今度の土曜日の?』

「ああ」

「何!?祭り!?どこでだ!?」



すぐさま反応した斑。



「全身全霊で守るからイカ買ってくれ!!」



隠すことない下心と共に迫る斑に、用心棒の役目よりイカが上だと夏目と雪野は冷めた目を向けた。





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