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2


「うわーーーーっ。ケマリーーーーっっ!!」



そろそろ寝ようかと布団を敷いていた雪野は聞こえてきた夏目の声に何事かと部屋へと向かった。



『どうしたの貴志く…わ』



雪野の隣をすり抜け夏目は靴を履くと飛び出した。



「な、夏目様!?」

「まずい、早く追いかけないと」

「え!?」

「今のなんだ。今のカルが指輪の…」



はっと雪野も夏目を追いかけ、中級達も慌てて走り出した。



「お、お待ちを夏目様」



大急ぎでカルを斑と共に追いかける夏目。しかし、今日に限って空は曇り、月明かりすらない夜だった。



「!だめだ、暗くてよく見えない」

「くそう、札め。ひとっ飛びで追えたものを」



もどかしそうに苛立ちを込めて斑がボヤく。



『ていうか、ケマリってなに!?』

「毛玉の名前!さっきつけた!」

「そのケマリとやらは夏目様に懐いてもどってきたのでしょう。驚いて飛び出しはしましたが、部屋で待っていればまたもどってくるのでは…」

「ーーーーいや。夏目を慕って帰ってきたのなら、たぶんもう来ないだろう」



中級の言葉を否定して斑は言う。



「詫びるため来たはずが、また、結局夏目にケガをさせたからな」



前を向いて走り続ける夏目をちらりと雪野は見た。確かに、夏目の頬には真新しい傷が。



「ーーーーおそらく、もう夏目に寄ってくることはないだろう」

「ーーーー噂とは違い随分繊細な妖ですな…」

「…そうだな。集団に襲われはしたけど、あれもよく考えれば…」



ーーーーああ。ひょっとしたら、おれが一匹を捕まえようとしていると思って、群はその一匹を守ろうとーーーー…。



「しかし夏目様、ならばなおさら急がねばなりません」

「え?」

「噂を聞きつけカルを恐れた低級どもが、八ツ原近くに集まりつつあるようです」



中級の言葉に夏目は目を丸くさせた。



「え」

「妖を食うという噂を信じ、この地から追い出すつもりのようです。留まらず旅をするだけに、実態を知る者も少ないですからな」

『…確かに、噂なんて勝手に育っていってしまうものだしね…』

「ーーーー…追い出すってどうする気だ」



気になり斑が確認を込めて尋ねる。



「カルの群れは七つ森近くの林に向かいつつあるようです。そこに急襲をかけるとか。襲われる前に襲うつもりらしいですぞ」

「まったく小物共め」



すぐさま夏目達はケマリも向かうだろう七つ森の林へ走り出した。



「む」


ちらほらと、七つ森の林へ近づくにつれカルの姿が。カル達は夏目達より先へさっさと跳ねていく。



「カルが集合している、場所が近いぞ。こいつらが向かっている方へいけば、ケマリもいるかもしれん」

「!ああ」



カル達を追いかけて走り続け、そして、枯れ木に止まる何匹ものカルを見つけた。



「ケマリ、いるか!?」



カルの群れに向かって夏目は呼びかける。



「ケマリ!仲間に八ツ原の方へは行くなと伝えるんだ。妖達が集まっている。お前達にはこの辺はもう危険なんだ」



ザワザワと、カル達がざわめきを見せる。



「おお、けっこうな数ですな…」

「これはキケンかもしれんな。一旦ひくぞ夏目」

「ーーーーああ…」



ーーーー……ああ、この中からどうやってケマリを…指輪をーーーー…。



「キーーーーイ」



その方法など考えつかず、指輪にもカル達にも迫る期限に途方に暮れていた夏目は、聞こえた鳴き声に顔を上げた。

ーーーーコツン.



「!」



何かが夏目の頭に降ってきた。何か小さいものだ。何かと拾いあげれば、赤い石のついた指輪。



「!ケマリか。ケマリ!?」



もう一度呼びかけると、また鳴き声が群れの中から。直後、ふわりとカル達が空へ浮き上がる。



『カルが…』



次々にカル達は空へと飛んでいく。



「ーーーー八ツ原とは逆の方向へ向かっておりますな」

「言葉は届いたようだ」



ふわふわと飛んでいくカル達を夏目達は見つめる。



「ーーーーあいつ、お前にはもう己を示さずに旅立つ気だな」

「ーーーーそうか…」



ぎゅ…と。ケマリが返してくれた指輪を夏目は握りしめた。



「ありがとうケマリ。さよなら」





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