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「…この辺りか?」
『うん』
雪野から話を聞いた夏目はすぐさま毛玉を探しに来た。
「おい毛玉、いるか?毛玉?」
『毛玉ー?』
「!いた」
茂みから覗く毛玉を発見。
「こら毛玉!」
「ぎゃっ」
掴みかかるとなんと悲鳴。よく見ると、それは毛玉ではなく斑の尻尾。
「あ、何だニャンコ先生のしっぽか」
「何をする阿呆!」
「先生こそこんな所で何してるんだ?」
「…お前、用心棒へ何たる言い草だ」
『授業中のあれも先生のしっぽ…?』
「ん?何のことだ」
詳しい説明は、放課後の帰り道で話した。
「…毛玉が増えた?お前寝ぼけてたんじゃないか?」
『えー…ああでも、二匹いると思ったらすぐ姿を消したしな…』
ーーーーゴオッ.
「んっ…え?」
突風に足を止めた目の端で、毛玉が飛んだ。
「お?」
風が止み、重力に従い毛玉が落ちてきた。
「おお?」
斑の頭にもう一匹。
ふーーーーっ。
「ぎゃ!?」
「あっ」
毛を逆立てた毛玉から慌てて夏目は斑を抱き上げる。
「け、毛玉!?」
『ほら、やっぱり二匹!』
「何たる恩しらず。この私を刺すとは!」
「どちらが昨日の毛玉だ?あ」
夏目が手を伸ばすと、二匹はぴょんぴょんの跳ねながら藪の奥へと逃げていく。
「おい毛玉…」
見えた光景に目を見開く。追いかけた先には、二匹どころか四匹の毛玉。
「「『!!』」」
やっぱり増えてるーーーー!!!
大衝撃を受けて夏目達は一旦その場を離れて帰宅。
「まいったな。悪い妖じゃないみたいだけど」
雪野と斑はおやつを受け取りに台所へ。
「(人に対して毒を持ってるし、学校の近くで増えられると心配だ)」
明日毛玉について調べてみようと決めて、部屋の襖を開けた夏目は面食らった。
「!」
整理されていたはずの部屋は、棚という棚は開けられ中身が床に散らばり、朝と違い散らかり放題だった。
「何だ!?泥棒…?」
驚きながらも、一階はなんともなかったと思い出し泥棒ではなさそうだと思うも、次に思うは友人帳めあての妖の仕業。
「(持ち歩いてて良かった…)」
ーーーーざわ…
はっと夏目は、自分以外の気配を感じた。
「…どこだ…こだ…ゆび…」
振り向けば、天井の高さでは足りない程大きな妖が背後から覆うように見下ろしていた。
「ゆびわ…わたしの…」
「…ゆびわ?」
「かえせ…」
その迫力に呆気にとられていた夏目は思い出す。この妖は昨日、名を返したアマナという妖だったと。
「返せ盗人!」
「う、わぁ!」
掴みかかってきたアマナに夏目が悲鳴をあげると、それを聞きつけお皿を持った雪野と団子を咥えた斑が飛び込んできた。
『貴志君?』
「む!?夏目」
アマナの口から何か吐き出された。
ーーーーびたんっ.
「!ぎゃあ!!」
『!?』
雪野と斑の額に紙のようなものがひっつき、突然の事にぎょっとする雪野と斑は勢いに倒れこむ。
「雪野!先生!」
「かえせ盗人、ゆびわはどこだ」
「ゆびわ!?何のことだ」
「…昨日ここを訪れた時、大事なゆびわを落としたのだ。探しにきたが見つからん」
慌てて必死に紙をはがそうとしながら、荒らされた夏目の部屋を雪野は改めてはっと見る。
「盗んだか小僧。この家に火を付けあぶり出してやろうか…いや足りぬ。裏の山ごとここいらの地を焼いてくれよう」
はっと夏目はアマナの言葉に焦る。
「待て、本当に知らないんだ。本当にここに落として行ったのか!?」
「ここに来る前まではあったのだ」
「うっ」
「夏目」
『貴志君!』
アマナの夏目を握る手に力がこもる。
「ーーーーなくしたのは気の毒だが、ゆびわを落としたのはそちらの過失だ。それを勝手に家探しして盗人呼ばわりか」
何とか守らねばと夏目はアマナを見上げ必死に声を出す。
「礼を欠くにも程がある。探しておくから出直してこい!!」
「………………おお…おお…確かに」
夏目からアマナが手を離す。
「…では三日やろう。赤い石のゆびわだ。それでも返せぬ時はここらいったいを焼くとしよう。あのゆびわは燃えぬから、きっと探しやすくなる」
しゅるん、と。アマナは姿を消し、ほっと安堵した夏目はその場に座り込み脱力。
「(こ、恐かった…)」
「く、くそう屈辱だ。夏目、これを早くはがせ!」
「(…ゆびわ…)」
ーーーー一体どこにーーーー。
こうして、家探ししてみたものの、指輪らしきものは見つからず。おまけに…。
「いたたた」
引っ張る夏目の手から斑は逃げ出す。
「いたたた。やめろ、毛が抜ける」
「だめだはがれない…雪野は?」
『同じく…これ、指輪を返さないとはずれないんじゃない…?』
「何!?」
「まいったな。一体どこを探せばいいんだ…」
うーん、と考える。
「……夏目、ひょっとしたらあの時じゃないか?」
「え?あの時?」
どの時かと夏目も雪野も首を傾げる。
「毛玉が」
「毛玉?………………」
毛玉が。ということで、毛玉がここへ来た時を思い出す。触ろうとした夏目に毛を逆立てて、部屋の中を飛び回って暴れて……よっく、暴れまわる毛玉を拡大すると、毛先に光るもの。
「『あーーーー!!』」
「毛玉がはね回った時落ちてた指輪が毛に絡んでしまったかも!」
「…確かに何か光るものが絡んでいたのを見たぞ。小物のくせにおしゃれな奴だと思っていたが…」
「ーーーーじゃあ、あの毛玉を探せば解決……」
見えてきた糸口に笑っていた夏目だが、思い出す。あの増えていた、どれも全く同じ風貌の毛玉を。
「「『………』」」
無言で見つめ合う二人と一匹だった。
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