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雪野が目を覚ますと、そこは病室だった。

ーーーーギィ…

扉が開く音に誰かと顔を向けた雪野は目を丸くさせた。



「雪野ちゃん」



ほっ、と目元を緩ませた塔子の隣には、スーツを着た見知らぬ男性。



『藤原さん…』

「良かったわ、目が覚めたのね。滋さんと二人で何かあったらどうしようって…」

「頭は大丈夫かい?痛いところは?」

『は、はい。大丈夫です』



安堵して塔子と滋は笑い合う。



「本当に、無事で良かった」



雪野の手を握り、塔子と滋は雪野に笑いかける。手のひらと、心の底から感じる温かさに雪野はぐっと体に力を入れ起き上がった。



「あ、起きてはダメよ」

『………私、藤原さん達と、一緒にいたいです』



震える声に塔子と滋は面食らう。



『…一度、断っておきながら…すみません、でも…お願いします』



ぎゅ、と手を握り返し、目に涙を浮かべる雪野を二人は見つめる。



『二人と一緒に…いたいです…』



最後の方は堪え切れず、雪野は泣いてしまった。ぼろぼろと涙をこぼす雪野に二人は驚き慌ててしまったが、答えはもう決まっていた。

ーーーー心配をかけたくない…。



「雪野ちゃん」



雪野が藤原家に滞在するようになった数ヶ月後ーーーー笑顔の塔子の隣にいる夏目を、雪野は目を瞬かせて見つめた。



「今日から一緒に暮らすことになった夏目貴志君よ」

「…よろしくお願いします」



塔子がそう紹介した夏目は、照れ臭さや戸惑いを混ぜて軽く会釈をした。出迎えた雪野は、塔子の隣で緊張に身を硬くする夏目に軽く微笑んだ。



『…よろしくね、貴志君』

「ふふ。これからもっと賑やかになるわね」






ーーーー大切にしたい人ができたんだ。

待っていてくれる人がいるんだ。

だから。

早く帰らなきゃ…早くーーーー…。






ーーーーぱん.

何かが、割れるような音が聞こえた気がして、雪野は目を覚ました。



「雪野?」

『…貴志君?』



目を開けると、夏目がこちらを見下ろしていた。のろのろと起き上がり布団の上を見ると、真っ二つに割れてしまった仮面の残骸が。



「…封印場所が工事かなにかで、掘りかえされでもしたんだな」

『先生…』



夏目と雪野を包むようにして座る斑は、本来の姿だった。



「こんなド素人のガキに封印されるようなまぬけな妖は、追っ払ってやった」



目を瞬かせた雪野は、仮面の欠片を手に取った。知らないうちに、解決したのかとぼんやりと見下ろしていたが、ふと片手に温もりを感じた。



『…え』

「言っとくけど雪野から握ってきたんだからな」



手を繋いだ状態に硬直した雪野にすぐさま夏目は言う。



「まだ寝ていろ雪野。塔子に叱られるぞ」

「塔子さんは、滋さんと一緒だから。そろそろ帰ってくると思うよ」

『ーーーーうん、ありがとう』



夏目の手を握りしめ、斑のふわりとした毛並みを撫でた雪野は微笑んだ。



『ありがとう…貴志君、ニャンコ先生』



ーーーー翌日。熱も無事に下がり、雪野は登校の準備をしていた。



『貴志君、そろそろ起きないと遅れるよー』

「!しまった、先生と無駄な争いをしてる場合じゃなかった」

「なにおう。先にケンカを売ったのはお前だ!」



また朝からケンカしたのかとため息をするも、見慣れた光景に雪野は笑う。



「ああ貴志君、遅刻しちゃう。お弁当お弁当!マフラーマフラー」

「あ、すみません」



大慌てで支度する夏目に、あとは登校するだけの雪野はクスクスと笑っていたが、ふわりと頭に耳当てが。



「雪野ちゃんは病み上がりだから、これも付けていきなさい」

『ありがとうございます』



目を丸くしていた雪野は嬉しそうにお礼を言う。



「二人とも残さず食べるのよ!」

「いってらっしゃい」

「『はい』」



塔子と滋に見送られ、雪野は夏目と笑い合うと学校まで走り出した。



「『いってきます』」





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