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「雪野」



自分を呼ぶ声にはっと目を開けた雪野は、血の気を引かせた。地面に横たわる雪野を見下ろしていたのは、あの妖だった。



「あの小物共は私が追い払ってやったぞ。ありがたく思うんだね雪野」



顔を青ざめて怯える雪野に妖はクスクスと笑う。



「さぁ雪野、一緒にいこう」

『……行かない。私は』

「おやおや帰る気か?」



雪野の言葉を遮り妖は言う。



「…雪野、本当に帰りたいと思うのかい?父親に全ての不幸はお前のせいにされ、唯一の肉親からは関心を向けられない、そんな家に?」



妖の言葉に雪野は目を見開く。



「子供は子供で、集まると何て意地悪になるんだろう、おかしいね。人間ってのは普通、子供を無条件に愛する生きものかと思っていた。なのに、どうしてお前は愛されないんだろうね。お前は」

『うるさい!!!』



耳を塞ぎ雪野は妖の言葉を遮り怒鳴る。



『どうしてって簡単よ!私が普通じゃないから、妖なんて見るから!無条件に愛するにも限界があるのよ!家族だからって、わけのわからない子供は怖いから、だから』

「だったら、私と一緒に来たっていいじゃないか。誰もお前を待っていないのに」



怒鳴り散らしていた雪野の声が止む。



「帰るのかい?」



妖が問いかけると、雪野は震える口を動かした。



『………お前の言うように、兄さんは義務的な対応しかしないわよ…でも、勝手に消えたら…色々迷惑がかかるのは間違いないの』



ーーーーいっそ消えたら兄の負担も減るだろう…だけど、そんな簡単な話じゃないんだ…。



「…成程ーーーー面倒なことだ」



妖は目を細める。



「ーーーーそうだ。それがお前の気がかりなら、そいつを私が食ってやろう」



一瞬、妖の言葉の意味がわからなかった雪野は、理解した瞬間血の気を引かせて妖に飛びついた。



『やめて!兄さんに手を出さないで』

「だってそうしないとお前は来ないのだろう?」

『そういう事じゃないの!お願いだから、兄さんを傷つけないで!!』

「だったらおいで私の所に」



口を閉じ、目を見張らせる雪野を妖は見下ろす。



「ーーーー今日は帰してやろう。うまく別れておいで。迷惑とやらをかけないように」



クスクスと笑う妖は去っていき、その場に残された雪野は途方に暮れたようにしばらく立ち尽くしていた。



「雪野ちゃん」



やっと家へと帰るべく歩き出していた雪野は、かけられた声にのろのろと顔を上げ目を丸くした。



『藤原さん…?』



笑顔で手を振っていた塔子だったが、目を瞬かせると雪野へと駆け寄ってきた。



「あらあら、どうしたの?あちこち汚れちゃって…待ってね、今ハンカチを出すから」

『いえ、大丈夫ですから』

「大丈夫じゃないでしょ!」



すぐさま言った塔子に雪野は面食らう。



「頬っぺたにも傷があるわ。女の子なのよ、傷が残ったら大変」



頬につく土をハンカチで拭ってやりながら、塔子は頭の葉っぱを払ってやる。



「他に痛いところとかない?ああ、絆創膏を持って来れば良かったわ。あ、お家にはある?無いなら、近くのお店で…」

『…ふ』



コロコロと変わる塔子の表情に思わず笑った雪野。目を丸くした塔子にはっと雪野は口を隠す。



『す、すみません。突然、笑ったりして…』

「…ふふ。どうして?笑うのはいいことよ。雪野ちゃんが笑ってくれて、私は嬉しいわ」



本当に嬉しそうに塔子が笑うものだから、雪野は気恥ずかしくなり顔を俯け、そして、塔子が何やら大きな袋を持っていることに気づく。



『…お出かけ帰りですか?』

「え?あ、ううん。違うの」




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