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帰る場所【後編】







「迎えに来たよ、お前の側にいてやろう」

『ーーーー…え』



怪しげな笑みを浮かべた妖の言葉に、雪野は困惑する。



「悲しみの心は私にとってとても甘美。そこで思いついたのだ、人を飼うのも面白い。お前は私の言葉を聞く希少な人間だしな」

『…!飼うって…』

「さぁ、おいで」



ぞっと恐怖を感じた雪野に妖は言う。



「さみしいのだろう。一緒に行こう雪野」



ーーーー一緒に…。

その言葉に雪野は一瞬揺らいだが、妖の手が伸びたのを見て我にかえる。



『!いや…行かない!』



急いで振り払い、踵を返すと雪野はアパートまで逃げ帰った。鍵をかけて、ドアスコープから外を見つめる。



『(…いない)』



ほっ…と安心して、その場に座り込む。



『(なんで妖なんかに関わったんだろ…)』



後悔する雪野の脳裏に、妖と木の枝に腰掛けた時を思い出す。



『(…助けてくれたと思ったから…だから)』



ーーーーカタン.

ビクッと、外からの物音に雪野は身を固くした。あの妖が来たんじゃないかと思った雪野は、もう一度、ドアスコープから外を見た…外には誰もいない。



『(どうしよう…いないけど、家…バレてるよね…)』



狭いその場でうろうろとどうしようと考えていた雪野ははっとする。



『もしあの妖が諦めてなかったら…藤原さんに迷惑がーーーー…』



優しく笑いかけてくれた塔子を思い出し、震える拳を雪野は握りしめた。



「何してるんだ」



声にはっと顔を上げると、兄が怪訝そうな顔をしてこちらを見ていた。



『…兄さん、私…やっぱり、兄さんと行く』



ーーーーあの人達に迷惑はかけたくないーーーー…。



『(でも、このままなのも良くないよな)』



学校からの帰り道、一人歩きながら雪野はこの状況の打開策を考えるが、思い浮かばずため息。



「やや、雨が降りそうだ」

「本当だ、あの雲の色は確かに」



聞こえてきた声になんとなく顔を向けた雪野は顔を青ざめた。妖だ、と分かるとすぐに藪の影に隠れた。



「釣りは今度にするか」

「しかしそれは暇だ。何処かにでも行くか」

「そういえば、この先の狐岩の近くに昔坊主がしそんじた妖封じの穴があるとか」



早く立ち去ることを祈っていた雪野は、耳に届いたその話に反応した。



『(妖封じの穴?もしかして、それを使えば…)』

「…ん?人間のニオイがする」



はっとした時には、遅かった。



「おお、やはり人の子が」

『!』



見つかったと顔を青くさせぎょっとした雪野はすぐさま逃げ出した。



「あっ、待て小娘!」

「ええい、待て…」



必死に逃げて捕まって、また逃げようと抵抗して…そうこうしてるうちに、雪野は気を失ってしまった。





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