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学校の帰り道のことだった。



『あ』



岩に腰掛ける妖と遭遇。その妖は、木に登れと雪野に助言したあの妖だった。



『よく会うね』

「………まだ二度目だ」



目を丸くさせた雪野はふっと笑った。



『それもそうだね』

「………お前名前は?」

『え?』



尋ねた妖にきょとんとしていた雪野は、すぐに笑って答えた。



『ーーーー雪野』

「……無知め。妖に簡単に名をあかすと、ろくなことにならないぞ」



また、きょとんとしていた雪野はむっと顔をしかめた。



『…だったらきかないでよ。ほんと、意地が悪いんだから』

「………」



突然、クスクスと笑いだした妖に雪野は何かと不思議そうにする。



「お前はさみしいんだね」



見透かしたようにそう妖が言うものだから、雪野は気分を害したように妖を睨みつけた。



「さみしい奴は好きさ。見ているとおもしろいから」

『………もうすぐ、この町を出るの』



クスクスと笑っていた妖に構わず、雪野は独り言のように話す。



『それが嫌で…ずっと一人なら、ここから離れたくなくて…その為にも、妖なんて………ねえ』



目を閉じていた雪野は目を開け、妖へと小さく問いかけた。



『妖を…見えなくなる方法って知らない?』

「……知らんな」



ふわりと風が吹き抜けて、雪野は遠くを見つめた。



『ーーーーそう…ありがとう。それじゃ』



立ち上がり、妖に背を向け歩き出す。少し肌寒く感じる風にマフラーを口元へと押し上げる。

ーーーー「行きたくないなら、藤原さんに頼んでやる」

ーーーー『藤原、さん?』

ーーーー「父さんの知り合い。葬儀にも来てただろ。その代わり、今後一切変な行動を取るな。やぶればこの話はなしだ」

兄との約束を思い出してため息をこぼす。



『妖さえ見えなきゃなぁ…』

「…雪野ちゃん?」



そっとかけられた声に雪野は顔を上げた。雪野と目があったその女性は、ぱっと笑顔を見せた。



「やっぱり。貴女、鈴木雪野ちゃんでしょう?」

『…えっと…』



嬉しそうに笑う女性に、見覚えのない雪野は戸惑ってしまう。



「ああ、ごめんなさい…あの時はそれどころじゃなかったものね。お父様の葬儀で、見かけてたからつい…」



眉尻を下げて緩く微笑む女性に、もしかしてと雪野は察する。



『…藤原、さん?ですか?確か、父の友人の…』

「ええ。私は藤原塔子、お父様とは長くお付き合いさせて頂いて…三ヶ月経つけどどう?お兄さんお元気?」

『…はい、おかげさまで』

「そう…良かったわ。雪野ちゃんは、今帰り?」

『はい』



この人が藤原さん…。

まさかこんなところで会うなんて思っていなかった雪野は、まだ戸惑いを残しつつ頷いた。



『えっと…兄に、用ですか?』

「ああ、違うの。雪野ちゃん、どうしてるかなって思ったら足が向いちゃってて…」

『え…』



どういう事かと雪野が目を丸くすると、塔子は照れ臭そうに笑う。



「ご免なさいね、戸惑うわよね。雪野ちゃんが家に来るって聞いた時から、私もう待ちきれなくて」



可愛らしく目元を緩ませて笑う塔子に雪野は面食らってしまう。



「お部屋も用意してるんだけど、今の若い子の好きなものってよく分からなくて。今度一緒に買いに行きましょうか」

『え…あ、はい…』

「ふふ、楽しみだわ。娘と一緒にショッピングって、憧れだったの」



娘、と言われて、思わず雪野は胸を弾ませた。



「お家は旦那の滋さんと二人暮らしなんだけど、古くて広いから雪野ちゃんが来てくれたらきっと賑やかになるわ」



楽しみにしてるわね。

アパートまで送ってくれた塔子はそう手を振り去っていった。



『(…優しい笑顔だったな)』



笑顔を浮かべて話してくれた塔子を思い出し、雪野は胸の奥が温かくなるのを感じた。



『(あんなに、楽しみにしてくれるなんて…)』

「雪野」



背後からかけられた声に顔を上げた雪野。



『…あれ?』



振り向くと、あの妖が立っていた。



『どうしたの?』

「気が変わったんだ。教えてやろう、妖の色々なことを」

『え』

「言っただろ、私はさみしい奴は好きなんだ。そういう奴が苦しむのを見るのは好きだ」



目を丸くさせる雪野に妖は口角を吊り上げ笑みを浮かべた。



「迎えに来たよ、お前の側にいてやろう」




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