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4
学校の帰り道のことだった。
『あ』
岩に腰掛ける妖と遭遇。その妖は、木に登れと雪野に助言したあの妖だった。
『よく会うね』
「………まだ二度目だ」
目を丸くさせた雪野はふっと笑った。
『それもそうだね』
「………お前名前は?」
『え?』
尋ねた妖にきょとんとしていた雪野は、すぐに笑って答えた。
『ーーーー雪野』
「……無知め。妖に簡単に名をあかすと、ろくなことにならないぞ」
また、きょとんとしていた雪野はむっと顔をしかめた。
『…だったらきかないでよ。ほんと、意地が悪いんだから』
「………」
突然、クスクスと笑いだした妖に雪野は何かと不思議そうにする。
「お前はさみしいんだね」
見透かしたようにそう妖が言うものだから、雪野は気分を害したように妖を睨みつけた。
「さみしい奴は好きさ。見ているとおもしろいから」
『………もうすぐ、この町を出るの』
クスクスと笑っていた妖に構わず、雪野は独り言のように話す。
『それが嫌で…ずっと一人なら、ここから離れたくなくて…その為にも、妖なんて………ねえ』
目を閉じていた雪野は目を開け、妖へと小さく問いかけた。
『妖を…見えなくなる方法って知らない?』
「……知らんな」
ふわりと風が吹き抜けて、雪野は遠くを見つめた。
『ーーーーそう…ありがとう。それじゃ』
立ち上がり、妖に背を向け歩き出す。少し肌寒く感じる風にマフラーを口元へと押し上げる。
ーーーー「行きたくないなら、藤原さんに頼んでやる」
ーーーー『藤原、さん?』
ーーーー「父さんの知り合い。葬儀にも来てただろ。その代わり、今後一切変な行動を取るな。やぶればこの話はなしだ」
兄との約束を思い出してため息をこぼす。
『妖さえ見えなきゃなぁ…』
「…雪野ちゃん?」
そっとかけられた声に雪野は顔を上げた。雪野と目があったその女性は、ぱっと笑顔を見せた。
「やっぱり。貴女、鈴木雪野ちゃんでしょう?」
『…えっと…』
嬉しそうに笑う女性に、見覚えのない雪野は戸惑ってしまう。
「ああ、ごめんなさい…あの時はそれどころじゃなかったものね。お父様の葬儀で、見かけてたからつい…」
眉尻を下げて緩く微笑む女性に、もしかしてと雪野は察する。
『…藤原、さん?ですか?確か、父の友人の…』
「ええ。私は藤原塔子、お父様とは長くお付き合いさせて頂いて…三ヶ月経つけどどう?お兄さんお元気?」
『…はい、おかげさまで』
「そう…良かったわ。雪野ちゃんは、今帰り?」
『はい』
この人が藤原さん…。
まさかこんなところで会うなんて思っていなかった雪野は、まだ戸惑いを残しつつ頷いた。
『えっと…兄に、用ですか?』
「ああ、違うの。雪野ちゃん、どうしてるかなって思ったら足が向いちゃってて…」
『え…』
どういう事かと雪野が目を丸くすると、塔子は照れ臭そうに笑う。
「ご免なさいね、戸惑うわよね。雪野ちゃんが家に来るって聞いた時から、私もう待ちきれなくて」
可愛らしく目元を緩ませて笑う塔子に雪野は面食らってしまう。
「お部屋も用意してるんだけど、今の若い子の好きなものってよく分からなくて。今度一緒に買いに行きましょうか」
『え…あ、はい…』
「ふふ、楽しみだわ。娘と一緒にショッピングって、憧れだったの」
娘、と言われて、思わず雪野は胸を弾ませた。
「お家は旦那の滋さんと二人暮らしなんだけど、古くて広いから雪野ちゃんが来てくれたらきっと賑やかになるわ」
楽しみにしてるわね。
アパートまで送ってくれた塔子はそう手を振り去っていった。
『(…優しい笑顔だったな)』
笑顔を浮かべて話してくれた塔子を思い出し、雪野は胸の奥が温かくなるのを感じた。
『(あんなに、楽しみにしてくれるなんて…)』
「雪野」
背後からかけられた声に顔を上げた雪野。
『…あれ?』
振り向くと、あの妖が立っていた。
『どうしたの?』
「気が変わったんだ。教えてやろう、妖の色々なことを」
『え』
「言っただろ、私はさみしい奴は好きなんだ。そういう奴が苦しむのを見るのは好きだ」
目を丸くさせる雪野に妖は口角を吊り上げ笑みを浮かべた。
「迎えに来たよ、お前の側にいてやろう」
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