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3







放課後を報せるチャイムが鳴り、一気に賑やかになった教室。



「ねえ、今度クラスでどっか行こうよ」

「いいねー。どこ行く?」

「…あれ?」



一人の生徒が窓際にある空席を見つけた。



「鈴木さんは?」

「貧血で帰ったんじゃないっけ」

「鈴木さんって参加するの?悪い子じゃないけど、取っ付きにくいっていうか…」

「突然悲鳴上げたりするしね。ちょっと不気味だなー」



ーーーーそんな噂をされていた雪野は、妖から逃げていた。



「待て人の子、私を見たな」



長い首の三つ目に追いかけ回され、雪野は顔を青ざめる。



「食ってやるぞ人の子」

『!こっち来るなっ』



必死に妖を振り払おうと逃げる雪野だが、妖も諦めずずっと追いかけてくる。



「待てぇ、小娘〜」



藪の影に隠れてやり過ごした雪野だが、まだ妖は近くをうろついている。



『どうしよう…これじゃ帰れない…』

「木にお登り」



途方に暮れていた雪野は、目を丸くさせた。



『え…?』

「そいつの目は上のほうはよく見えないんだよ」



頭上から聞こえてくる声に雪野は戸惑う。見上げるも、生い茂る葉っぱに姿は見えない。だが、悩んでる間に妖に見つかるわけにもいかず、雪野は声の通りに木を登った。



「どこだ〜。どこへ行った〜」



無我夢中で登りきった時、妖が木の下を通りがかった。妖は木の上にいる雪野には気付かず、雪野を探して離れていった。



『(行った…)』



遠ざかっていく妖にほっとした雪野は、ふと隣を見た。



『……』



一つ目の長い髪を垂らした妖が木の枝に腰掛けていた。



『お前が助けてくれたの?』

「助けてなどいない。あいつが食いっぱぐれる姿を見たかっただけだ」



即答する妖に雪野はため息。



『…意地が悪いね。さすが妖』

「お前は見えるくせ、妖のことは何も知らないんだな」

『当たり前でしょ。誰に教えてもらうのさ…第一、こっちだって好きで見ているわけじゃないよ』



……そうだ。ふと思い立った雪野は妖に顔を向ける。



『…お前、名前は?もし良かったら、私に妖のこと教えてくれない?』



にこりと笑う雪野を妖は見つめる。



「冗談ではない。私に何の得がある」



笑顔を引っ込めた雪野は、小さくため息をして目を伏せた。



『そうだね。やっぱりいいや』



枝から立ち上がり、地面へと飛び降りる。



『それじゃ』



妖に別れを告げ、雪野は家へと走り出した。



『(やばいな…少し遅くなった)』



薄暗くなった空を見て雪野は走るペースを早めた。玄関前で服の汚れを手で払い、ドアを開ける。



『(帰ってる…)』



玄関にある革靴を見て、雪野は気まずそうに眉尻を下げた。



「遅かったな」



リビングで開いたパソコンから顔を上げず、兄は雪野に開口一番にそう言った。



『ごめんなさい。少し、寄り道して…』

「約束が守れないようなら、あの話はなしだぞ」



ぎくりと雪野は兄の言葉に顔を引きつらせた。



「すぐにでも藤原さんの所に連絡を入れる」

『ごめんなさい、もう寄り道しないから…』



返事はなく会話も途切れ、キーボードを叩く音が室内に響く。居心地が悪くなり、雪野は堪え切れず自室へと戻った。



『(変な行動には気をつけないと)』



部屋着に着替えながら雪野は先程会った妖を思い出す。



『…好きで、妖なんて見ないよ』




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