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2
寝苦しさに、はっと雪野は目を覚ました。自分の部屋で布団に入っており、額には濡れたタオル。
『…貴志君?』
誰もいない部屋の中、起き上がり呼びかける。
『先生?』
布団から抜け出し部屋を出る。
『塔子さん…?……滋さん?』
静まり返る暗い廊下。すぐに雪野は夏目の部屋の襖を開ける。
『……貴志君?ニャンコ先生?』
やはり誰もいない室内に、雪野は階段を早足に駆け下りた。
『…塔子さん…滋さん…?』
どこを探しても、誰もいない。不安を感じるも雪野は前を見据えて拳を握り締める。
『…しっかりしろ。これは夢…あの妖が、見せてる夢』
もう一度雪野は、妖の声を思い出す。
ーーーーカタン…
はっと雪野は振り向く。記憶の隅にあるはずの妖の記憶を思い出そうとしていると、物音が聞こえてきた。
『(誰かいる!)』
やっと自分以外の人がいる気配に、物音がした部屋へと向かった雪野ははっと動きを止めた。
「何ヲ探シテイルンダイ?モウ、コノ家ニハ誰モイナイヨ」
部屋の隅で、だらりと髪を垂れ流して座るのはあの妖。
「ミンナ、私ガ食ベテヤッタヨ」
『う』
振り向く妖にとうとう雪野は堪え切れなくなった。
『うわああああ!!!』
「ぎゃっ」
勢いよく飛び起きた雪野に斑は跳ね退く。
『…う…』
「急に動くなアホウめ」
くらくらと世界が回り、布団に倒れこむ雪野に斑は呆れ半分怒り半分に言う。
『(…ああ、やっぱり夢だった)』
ほっとした雪野はふと気付く。
『…あれ?塔子さんは?』
「お前のために買い出しだ」
『え!?こんなおそくに…?』
「夏目も一緒に行った。大丈夫だから大人しく寝ていろ」
『……うん』
斑の頭を軽く撫でて、雪野は再び布団の中に潜り込む。
「ーーーーあの妖は何だ。お前はあの妖を知っているのか?」
目を瞬かせていた雪野は、夢の中で見た妖を思い出す。
『ーーーーうん。ここに来る少し前に、確か会ってると思う…』
ふ、と雪野は軽く笑う。
『先生には話した事なかったね…私、年の離れた兄がいるの…その兄と暮らしてた頃…よく、妖のことを知らなくて…今も、よくわからないけど…』
まだ話は続けたかったが、重たくなってきた瞼に雪野は我慢できず目を閉じた。
『…先生…そこにいてよ』
ーーーーきっとまた、夢を見てしまうからーーーー…。
「雪野。雪野?」
呼びかけに応えない雪野は寝息を立てていた。
「……やれやれ。本当に世話のやける」
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