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3
嬉しそうに微笑んだ妖が、鏡へと手を伸ばした時だった。
「かがみ」
「!」
はっと夏目は振り向く。
「かがみ、かがみ、ぎ、ぎ」
金槌の妖が現れた。
「ほしい、ちから」
「まずい。またあいつが…」
鏡を狙う妖に夏目は庇おうと前に出た。
ーーーーがつん.
「あ…」
「!!夏目!?」
『貴志君!』
金槌で殴り飛ばされた夏目に斑はぎょっとして金槌の妖を睨む。
「よこせ」
金槌の妖は、鏡を持つ妖へと向かう。
「よこせ。よこせ」
ーーーーチカッ…
「かがみ…」
ーーーーカッ.
「!!」
鏡から、眩いばかりの光が放たれた。あまりの眩しさに雪野と田沼は手で遮る。
「ぎ、ぎ、まぶしい。まぶしい」
金槌の妖を、鏡を構えたまま妖は見据えた。
「ーーーー悪いがこの鏡、ゆずってやれん。帰るがいい」
「まぶしい。かがみ」
こわい。こわい。と金槌の妖は、一目散に山の方へと逃げて行ってしまった。
「ーーーー去ったな」
「夏目。夏目大丈夫か!?」
『貴志君!?』
慌てて田沼と雪野は地面に倒れる夏目に駆け寄る。気絶していた夏目の目が開かれた。
「ーーーー行くのか」
田沼の背後にいる妖に夏目は確認を込めて問いかける。
「ああ、探さねばならない」
意志の強い瞳を雪野は見つめた。
「文句のひとつも言ってやらないときがすまぬ。そして病を祓ってやって…存分に語り合うのだ」
「ーーーー…ああ」
穏やかな顔をする妖に、夏目は目を伏せた。
ーーーー見つけられるだろうか。風の噂だけを頼りに。
「……」
ーーーー重い病。ひょっとしたらもうーーーー…。
「お前が暗い顔をすることはない。私が探したいだけなのさ、どんな結果が待っていようと。私が会いたいだけなのさ」
触れるか触れないか。そんな距離に妖は夏目の頬に手を添えてやり、励ますように言う。
「さらば人の子ども。心通わせる機会があるなら、恐れぬことだ…むずかしいことなのだ」
ーーーーだからこそーーーー…失敗もするし、得がたいものも得る。
「ーーーーそうか、行っちゃったのか。タキにも報告しないとな」
「ああ」
こうして、何とか田沼とりつかれ事件は解決した。
「心配してくれた夏目達には悪いけど、ちょっと楽しかったよ」
「え」
「夏目や鈴木が見ているものも見えたし、あの妖ともけっこう話も出来たし」
「え」
聞き捨てならず思わず夏目は足を止めた。
「話したって何を?変なこと吹きこまれてないだろうな」
「あはは」
慌てる夏目に田沼は笑う。
「夏目は本当に苦労してるんだな」
「!」
苦労と言われ、少し考える。
「…でも…別に…苦労ばかりだけじゃないんだ…」
うまく伝えられるか、慣れない会話に気恥ずかしそうにしながら夏目はそう呟く。
「そうだっただろう?」
「ーーーーああ…」
どことなく不安そうに尋ねた夏目に、田沼はきょとんと面食らうもすぐに笑った。
「そうだったよ」
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