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人間退治
『おはよう貴志君』
「ああ、おはよう」
休日、起きてきた雪野は、昨夜から気になっていたことを夏目に問いかけた。
『ねえ、昨日悲鳴をあげた?』
「悲鳴……ちょっとニャンコ先生が布団に入ってたから驚いただけだよ」
『先生?』と雪野は足下にいるたんこぶを作った斑を見る。
「招き猫(このすがた)は寒いんだ。バチあたりめ、私を甘く見ていると今に酷い目に遭わせてくれるぞ」
自称用心棒の斑。けれど本心は隙あらばと友人帳を狙っているようだ。
「タカシ君、雪野ちゃん、買い物行ってきまーす」
塔子の声に二人は玄関先まで見送りに。
「はい、気をつけて」
『行ってらっしゃい』
「休日なんだから二人もお出かけしてもいいのよ?タカシ君はこちらではもう新しいお友達できた?」
問いかけてきた塔子に夏目は笑う。
「…ええ、皆よくしてくれますよ」
その答えに塔子はよかった、と笑って戸を開けた。
「じゃあいってきます」
戸を開けた先に、明らかに妖怪だという者がいて二人ははっとしたが、妖怪は塔子と入れ違いに素早く中に入り込んできた。
「夏目様と鈴木様でございますね?お邪魔致します。」
「か、勝手にあがりこむな」
『何なのお前達』
深々と頭を下げる二匹の妖怪に二人は引き気味に言う。
「むっ、また名を返すのか?くそう、ますます友人帳が薄くなる!!そのうち手に負えぬ程の大物が来て、このナマイキなガキ共を喰ってくれるのを待っているのに」
「『おい、ニャンコ…』」
斑の背後で二人は拳を握る。
「どうしてこんなチンピラ妖怪ばかりが来るんだ!!チンピラ好きなのか!?レイコとミヨのバカ馬鹿〜〜〜!!」
「違います」
バタバタと暴れる斑に一匹(一人?)が言う。
「強力な妖力をお持ちな夏目様と鈴木様にお願いがあって参りました。どうかお助け下さい」
「お二人に退治して頂きたい人間がいるのです」
「『………………』」
……人間退治?
「最近我々の住む八ッ原に妖怪退治きどりの人間が現れたのでございます。退治といっても半端に強いその人間が己の妖力試しに楽しんでいるようなのであります」
「我々はただ面白おかしく暮らしているだけなのに!!」
「『(面白おかしく…?)』」
ちょっと気になったがスルーで。
『……それは気の毒かもね』
「…けれど妖怪を退治できる人間なんて本当にいるのか?」
「いるんです!!」
間髪入れずに妖怪は答える。
「自覚なくても退治されるようなことをしてるんじゃないのか?」
「夏目様!!」
『あ〜〜〜〜…知らないだろうけど、人が人を退治すると色々な問題が出てくるの』
「ケーサツざたっていうんだ」
で、二人の答え。
『だから無理』
「悪いな」
きっぱり言って泣き叫ぶ二人を外へと追い出した。
「なぜやらん、面白そうじゃないか。私は人間を懲らしめるのは得意分野だぞ」
『先生、よだれ出てる』
「ややこしくなるから先生は黙っててくれ」
その次の日。
「寝ているおれに近づくな〜〜〜〜!!」
「おおっ、朝っぱらからやるかぁ」
『…(え、何してるんだろう)』
登校時間になり夏目を呼びに来れば、何故か斑と喧嘩している。
『貴志君、遅刻するよ?』
いつまでも終わらないケンカは、雪野のこの一言で終わった。
「………いってきま…」
引き戸を開けた向こうには昨日の妖怪。
「おはようござい…」
ーーーーピシャン!
最後まで挨拶を聞くことなくすぐさま引き戸を閉めた夏目は雪野としゃがみ込み斑を見る。
『昨日の!昨日の妖怪!!』
「まだいるぞ先生!!」
「いるな」
顔を見合わせた夏目と雪野はため息を吐いて、ずっとここにいるわけにもいかず外に出た。
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