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『………』
捕まるわけにはいかないと、後ろばかり気にして走ったせいだろうか。
『はぁーーーー〜…』
雪野は草に埋もれてあいていた穴に落下した。
『(なんだって穴が…)』
「うっ!?」
ーーーーガラッ…
声と共に、小さな瓦礫が降ってきた。
「わああぁあぁぁ!!!」
『!!?』
悲鳴と共に降ってきたのは、夏目だ。
「…いてて…ん?わあっ。雪野!?」
柔らかい地面に怪訝そうに見下ろした夏目は、下敷きになる雪野に気づきぎょっとして飛び退く。
「わ、悪い。大丈夫か?生きてるか?」
『う…腰が…』
よろよろと雪野は起き上がる。
『貴志君も落ちちゃったの?』
「ああ。まさか雪野までいるとは…まぁ、ここにいれば当分踏まれることはなさそうか…」
それもそうかと笑っていた雪野は、穴の入り口を見上げた。夏目も倣って見上げると、賑やかな声が聞こえてくる。
『楽しいね、影踏み鬼。私、こうしてみんなで遊んだことないからさ』
「おれも」
クスクスと、嬉しそうに笑っている雪野に夏目も自然と笑う。
「…転々と引っ越す先で着いてすぐには、話しかけてくれる子は結構いたんだよ」
空から夏目へと雪野は顔を向ける。
「風評なんか気にしないで、純粋に。それなのに、おれがわけのわからないこと言うから…彼らにとっては、嘘つきだから…」
ぼんやりと、昔を思い出す。
「嘘つきが、嫌われるのは当然で…」
無邪気に笑って声をかけてくれた子供達も、少しずつ離れていった。
『優しい嘘つきと、意地悪な嘘つきがわかればいいのにね』
微笑してため息する雪野が、冗談なのか本気なのか呟く。わからなかった夏目は苦笑いした。
「エスパーとか専門外だな」
『ふふ。私も』
「夏目。雪野」
笑っていた二人は、あっと顔を上げた。
「ーーーーニャンコ先生…」
ひょっこりと、斑が顔をのぞかせていた。
「まったくドン臭い。さっさと上がれ、お前達が最後だ」
「ーーーーおれ達が踏まれたらおしまいか…」
『ニャンコ先生が勝っちゃう』
「だからってずっと隠れているか?」
「ーーーーいや」
夏目と雪野は顔を見合わせ、再び斑を見た。
『上がれないの』
「ひっぱりあげてくれ」
「何!?」
ムキー!としながらも、本来の姿に戻って斑は二人を穴から出してやった。
『(もう夕方だ)』
外に出て気づいたが、日は沈もうとする頃合いだった。
「おお夏目」
「鈴木様」
「お前達も踏まれたか」
「なさけない。やはり人間は弱いねぇ」
円の中で待っていた妖達は口々に言う。
「何だよ。みんなも踏まれたんだろ」
「鬼の勝ちだな。祝い酒だ」
「祭りじゃー」
どんちゃん騒ぎを始めた中級に、勝とうが負けようが口実作って飲んでいただろうと察する。
「守ってやるさ。弱いお前達が呼ぶのならば」
ヒノエの声が、どんちゃん騒ぎの中聞こえる。
「しょうがないね」
「……」
「しょうがない」
目を丸くさせる夏目と雪野。
「気に入ったんだからしょうがないさ」
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