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特別編7







「…おのれ夏目ちょこまかと…往生際が悪いぞ」

「ふざけるなよニャンコ先生。仮にも用心棒がこんなこと許されると思うなよ」



蝉が鳴く青空の下。背中には木で逃げ場のない夏目。そんな夏目を追い詰めた斑。互いにじりじりと、こう着状態で睨み合う。



「斑さま〜やっちまえ〜」

「人間相手に情けないですぞ〜〜」

「「外野は黙ってろ!!」」



はしゃぐ中級妖二匹の隣で、雪野はため息。

ーーーーことの始まりは、帰宅中のことだった。

今宵は「妖光の月」といって酒の美味くなる夜。夜に向けて昼間から集まり酒を飲む事となったのだが、何の縁だか夏目や雪野を知る妖達が顔を揃えたとのこと……と、いうわけで。



「「夏目様と鈴木様を偲ぶ会」in八ツ原近くのボロ神社を開催することとなり、お迎えに参りました」

「…え?」



色々ツッコミたいが、あまりに突然で夏目と雪野は戸惑うしかない。



「お二人のしょうもない悩みやお節介に付き合って、呼び出しあらば犬のごとく馳せ参じようという妖が集まった飲み会」

「いわば夏目・鈴木組、犬の会」

「『何!?』」

「酒はあるのか!?タダ酒か!?」



断る権利はないのか。中級二匹は夏目と雪野を胴上げするようにして地面を歩く自由を奪う。



「さぁさ、おいでませ。おいでませー」

「わーはなせー!そんな怪しいとこ行くもんか…はなせーっ」



ーーーーこうして。



「わぁっ…いて…」

『…つ、連れてこられた…』



妖達の集会に、参加することとなったのだ。



「おお、雪野」

『え、わっ』



顔を上げるより先に雪野は引っ張られた。



「こっちだこっち。私の横においで」

『ヒノエ!』

「遅いのであります。相変わらずドン臭いのであります」

「ささ、夏目親分」

「真昼間から飲みあかしましょう」

「『うわぁ…』」



ヒノエ、ちょび、カッパ、中級妖A、B、ニャンコ先生…と、ここ最近知り合った妖達集合に、夏目と雪野はここまで揃うかと言葉が出ない。



「さぁさぁ夏目様」

「雪野おいで」

「いちいち触るな。未成年だから飲めないぞ」

『…ジュースとかないの?』



どうしてもお酒な妖たちに呆れる。



「久しいね」



ふわりと、夏目の隣に着物を揺らして紅峰が現れた。



「タダ酒があると聞いて久々来てみればお前達か…」

「紅峰さん」

「よお紅峰か」

「ああ斑さま。何度見てもおいたわしい、ちんちくりんなお姿…」



嘆く紅峰に斑は得意げに笑った。



「お前は浅いな、この姿もファンはいるんだぞ。人間の娘だがな」

「何と!!おのれ人間め、どこまでも悪趣味な」

「小娘静かにおしい」

「さすがは夏目様に鈴木様…大物な知り合いの多いことで…」

「…そうなのか?」



全然良く分からず二人は実感しない。



「あ…」



藪の中から、いつかの子狐が顔をのぞかせた。



「お前も来てくれたのか」

「…お酒は飲めないけど…」



夏目が笑いかけると子狐も笑顔を浮かべた。



「賑やかで楽しいね。夏目、人はこんなふうに集まった時、どんなことして遊ぶの?」

「え…?」



わくわくと子狐が尋ね、夏目も雪野も目を瞬かす。



「ほぉ」

「私も聞きたいね。人の子の間ではどんな遊びをするんだい」

『え…』



夏目と雪野は顔を見合わす。



『んーーーー…トランプ、とか?あまり外でなかったからな…』

「…野外だと確か、鬼ごっこや陣とり…影踏み鬼とか…」

「影踏み鬼?面白そうだね」

「そうだ。飲めぬお二人に付き合って、その影踏み鬼とやらをやろう」

「え!?こらまて誰が…」

「よしやろうやろう」

『ちょっと!?』

「夏目様!いかなる遊びなのですか!?」

「『……』」



もうやることは決定な空気に、夏目と雪野は無意味な反論をやめた。



「…確か…鬼ごっこは知ってるか?その要領で「影を踏まれた者」が次の鬼になるんだ」

「鬼…?それはまた面白そうな…」

「当然つかまえた者を鬼は食っていいということか…」

「いやまったく違うぞ」



ちゃんと聞け。目を光らせる数名に即答する。



「…たぶん、基本は鬼に影を踏まれないよう逃げまわる遊びだ。物陰に隠れたり、姿勢を低くして鬼をかわすんだ」

「何だい。じゃあ日陰に入っていればいいのか」

「確か…五秒以上は反則…だった気が。範囲はこの神社敷地内にするか。よしじゃあまずはおれが鬼だ。始めるぞ…」



なんて言ってる間に全員が既に走り出していた。



「……」



…脱兎のごとく…だな。思わず感心してしまう夏目は、ついつい幼き頃の自分と近所の子供達のやりとりを思い出してしまい、自嘲気味にため息した。





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