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4


陣を描き、壺を置いた名取は呪文を唱え始めた。夏目は大妖を陣まで誘導するため囮に。

ーーーーカツン.

夏目の投げた小石は大妖の額に命中。音もなく振り向いた大妖が追いかけるより先に、夏目は背を向け走り出した。



「…おお…あああ」



ついてこなくては、意味がない。追いかけてくるのは作戦通りなのだが…。



「(早い!!!)」



巨体に見合わないスピードにぎょっとして夏目は走るスピードを上げる。



「(名取さんの封印の陣へ誘い込めればーーーー…)」



岩に寄りかかり、目を閉じていた雪野は目を覚まし、はっと身を乗り出した。



『貴志君!』



ーーーーがっ.

あと、少しで封印の陣というところだった。その間際、大妖の大きな手が夏目を捕らえた。



「夏目!!」



名取が駆け出すが、間に合わない。大妖の大きな口が、夏目に近づく。

ーーーーたんっ.

大妖の首裏に、突き刺さったのは矢。大妖の背後に、両手を合わせ構える的場が見えて夏目は目を見開く。



「的場…」

「地に眠りし錠を持つ者来られたし」



名取の声に混じり、的場が呪文を唱える。



「岩間を荒らすは彼、人ならぬものは連れ帰られよ」



ーーーーカッ.

矢に雷のような電流が走ると、眩く光を放った。その直後、崩れるようにして大妖の姿が消滅し、夏目は瞬きも忘れ呆然と見つめる。

ーーーーどさっ.



「夏目…」



地面へと落下した夏目に、雪野と名取が駆け寄る。



「いらない妖に手間などかけず、消してしまえばいい」



そう言った的場を雪野は眉根を寄せて見上げた。



「あの妖も女も、どうでもいいので放っておいても構わなかったのですが」



夏目を見下ろし、目を細めた的場は口角をあげて笑った。



「ーーーー君は面白そうだ」



睨む夏目の、力強く握り締められた拳が小刻みに震える。横目に雪野と名取はそれに気づく。



「ーーーー私は的場一門当主、的場静司」



よく見ると、的場の背後には七瀬の姿もある。



「以後、お見知りおきを」



立ち去る的場の背を、雪野は二度と会わないことを願いつつ見送った。すぐに、女性と斑のもとへと戻る。



「ーーーーこの女のこの件については、名取家が預からせてもらうことにするよ」

『…この女、どうなるんですか?』

「それなりの処罰はあるかもしれないけど…悪いようにはしないさ。まあ、知った顔だし…夏目?」



ぼんやりのしていた夏目は名取の声にはっと顔を上げた。



「…すみません名取さん…………」



あ。と夏目は斑に駆け寄った。



「ニャンコ先生!」

「大丈夫だよ。回復するため眠っているんだ。あの的場の矢を受けたってのに、立ってただけでもすごいよ」

「ーーーー…はい……でも」



斑の頭を撫でる夏目の手が、小刻みに震えた。



「ーーーー夏目、柊達の所へ帰ろう」



そう声をかけるが、夏目は顔を上げない。



「夏目!」



今度は少し強く。名取が呼ぶと夏目はやっと顔を上げた。



「君があの人達のことで気持ちを揺らす必要はないんだ…ああいう人達もいるというだけのことさ」

「ーーーー…はい」



頷くも、やはり色々考えていた夏目は、ふと右手に温もりを感じた。



『帰ろう、貴志君』



眠っている斑を抱き上げた雪野が、そう気遣うように笑った。



「…うん」



ぎゅ…と。縋るように夏目はその手を握り返した。





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