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3


何か、ぶつぶつと呟く声が聞こえてきた。



「(呪文…?)」



何を言っているのかわからないが、呪文らしきものを唱えている女性に気づく。



「夏目、雪野。壺の中が空になっている…」



名取の言葉に雪野は壺に目を向ける。中身はゆっくりと上昇している最中だった。



「(血が向かっている方向はーーーー…)」



大妖の、口の中だった。

ーーーーズズ…どおっ!!!



「!!」



岩から顔が抜け出し、地面に大きな音を立てて大妖は倒れこむ。



「ーーーーしまった。陣に落ちた猫の血で目覚めてしまったか…」

「!」



ちらりと、夏目は笑みを浮かべている的場を見た。



「(ーーーーわざとか?)」



大妖を試したく、わざと斑を射ったということだ。



『…うっ!?』



ゆっくりと、起き上がる大妖に雪野が顔をしかめて呻いた。



「お…お、お、おおお」



ぶわりと、大妖から何かが溢れる。



「離れろ夏目、雪野。ひどい毒気を放っている」



辛そうに片目を瞑り言う斑。夏目と雪野も、この大妖はヤバイということだけは分かった。



「お前のために血を集め、陣を描いたのは私だ。さぁ、私のためにあの男を食べなさい」

「おお」

「さあ、あの男を…」



はっと、夏目は女性を見た。



「あぶない…」



ーーーーばんっ.

間に合わず、女性は大妖に払うように殴られた。

ーーーーばんっ.



「!!」



ーーーーばんっ.

地面や壁、あちこちを叩き潰そうとする大妖をかわしつつ、夏目は女性へと駆け寄り抱き起こす。



「大丈夫ですか!?」



気絶してしまったようで、女性からは反応もなくぐったりとしている。



「しっかり…」

「無様ですね」



傍観していた的場が言う。



「妖祓いをやっていながら妖に情を移して、思慮に欠けた行いに走るとは。あげくがこれか」



あまりの言い草に不愉快そうに、夏目は眉をひそめる。



「あの妖は使えない。うちは撤退する」

「!おいあんた」



思わず突っ掛かりそうだった夏目だったが、隣でふらりと膝をついた雪野にはっとする。



「雪野」

「あの妖の毒気が充満してきている…ここは危険だから外へ」



顔色の悪い雪野を名取は背負う。



「さすがにこれが地上に出るのはまずい。封印してみる」

「!おれも手伝います」



すぐさま夏目は申し出る。



「ひとりよりはふたりでしょう?」



面食らうように、名取は夏目を見下ろしていた。



「先生、その女の人についててやって…」



女性の傍、目を閉じている斑の頭を去り際に夏目はそっと撫でて、外へと向かった。





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