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人ならぬもの【後編】







ゆっくりと、顔を振り向かせた夏目。



「(ーーーーでか)」



巨人の体に圧倒され目を見張り、思わずお腹から胸、首と視線を上げていく。



「(動かない…岩に顔が埋まっている)」



目元から上は岩に埋まって見えないが、今にも食いつきそうにぽっかりとあけられた大きな口にぞっとする。



「見ろ夏目。大妖を中心に既に目覚めの陣が描いてある」



見下ろすと、斑の言うように陣が描かれてあった。隅の方には大中小と数個の壺もある。



「…壺…?」

「集めた血が入っているんだろう」



それを聞いて、雪野は壺から少し離れた。



「しかし、目覚めにはその壺だけではまだ人の中の供物が足りていないようだ」

「ふふ。強欲な的場が気に入りそうな妖を、わざわざ探し出してやったんだ」



一歩女性は夏目たちに近づく。



「派手に血を集めたり、大妖の噂を流したり…ここにおびき寄せてやろうと思ってねーーーーあいつが辿りついたその時、目覚めさせて食わせてやるのさ」

「…式を食われた復讐ですか…?」



警戒して鋭い目を向けたまま名取は問う。



「ーーーーこういう仕事な以上、使っている妖は…」

「道具のような存在?」



心揺らさず、女性は笑みを浮かべる。



「私にはそうではなかったんだよ」

「ーーーーだからって正気ですか?多くを巻きこんで」

「わかってもらわなくて結構…的場もじきにここへ来るだろう。しかしまだ血が足りないのだ」



ーーーーカサ…と。紙が擦れるような音が聞こえた。



「もらうぞ」



気配を感じ、恐る恐る雪野は振り向いた。刃物のように鋭いものを振り上げる、紙の面をつける黒いものがいた。

ーーーーガンッ.



『名取さん…』



すぐさま反応した名取が雪野と夏目の前に出て攻撃を防ぐ。



「ふふ。まだいるぞ」



ゆらり、ゆらりと。おなじものがこちらに向かってくる。



「!」

「ちっ」



ーーーーどろんっ.



「きりがない」



見かねた斑が、本来の姿に戻り食らいつく。



「先生…」

「…不美味」



斑に食らい付かれると、簡単に黒いものは靄のようになって消えた。



「ーーーーふん。こんな影人形など一掃してやるわ…」



続けざまに食らおうと斑が振り向く…が、斑が食らうよりも先に、黒いものは靄となり消えた。



「(ーーーー矢?)」



どこからか飛んできた矢が突き刺さり、黒いものは消えたのだ。



「(どこからーーーー…)」



考えていた夏目は、はっと斑の前に出た。



「先生…」



斑に向かって飛んでくる矢。



「うっ…」



庇おうとした夏目の左肩を矢は掠め、斑に軽い音を立てて突き刺さった。



『貴志君!!』

「!夏目」

「!」

「おや。失礼」



倒れ込んだ夏目に駆け寄っていた雪野は、聞こえた声に顔を上げた。





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