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「夏目どこへ行く」

「ツユカミさまのところだ」

「ふーん」



歩いていた夏目と雪野を見つけた斑はついて行くことに。



「あのススギ≠チてのは確か、木陰を伝って村へ下り、村人に残飯をもらうかわりその家の皿を洗って帰るって言われてる妖怪だ。この時世、すがたを見る人間も減ったし木陰ももう街へは届かないだろうな」

「そうか…」

「同情は必要ないぞ。山にはまだ仲間がいるし食べものもある。人なんかと縁が切れて妖怪のほうもきっと清々してるさ」

『……そうなの…?』

「ーーーーだったらいいなぁ」



穏やかな顔をした夏目と雪野をじっと見上げた斑だった。



「ツユカミさまー。蜜柑の差し入れもってきてやったぞー」

『ツユカミさまーーーー?』



見当たらない露神にどうしたのだろうかと思っていると、小さな声で自分達を呼ぶ声が。声を辿ると祠の前に露神の姿が。



「…あれ?ツユカミさま、さらに小さくなってないか?」



む?とツユカミが言ったとき、ぽう、と足下から光が。



「!?どうしたんだツユカミさま、何か光り出したぞ!?」

「おおお?」

『な、なになに!?』



ぎょっと慌てていると、そうか、とツユカミは呟いた。



「ハナさんが逝ってしまうのか」



ピタ、と空気が止まったような感じがした。



「ーーーーえ?」

「ハナさんは長いこと患っていてね。最近はここへ来るのもやっとだったんだ。ーーーー…ハナさんは私を信仰してくれた最後のひとり。彼女が逝けば私も消えるのさ」



初めて知った事実に二人は目を見張ったが、次には力付いたものになっていた。



「…おれが信仰する。毎日は無理でも拝みに来てやる」

『私も、お供え物とか持ってくる』

「だめだよ夏目、雪野。君達は私の友人だ」



そう言った露神に二人は黙った。



「これでいいんだ。ハナさんと共にいける」



のばされた露神の小さな手に、夏目と雪野は触れる。



「長いこと長いことずっと見ているばかりだったが、これで人に、彼女に……」



ーーーーやっと触れることができる気がするよ。



「ーーーー聞こえていたよ。ハナさんには、露神様の声が」

『ーーーーちゃんと、伝わってた。』

「ーーーーありがとうー夏目…雪野…昔も今も、人とは可愛いものだねぇーーーー…」



ーーーー



「ツユカミ、いつまでも供物は続かないわよ。人はとても現金で薄情よ。力があるうちにもっといい住処を探すのが身のためね」

「ありがとうレイコ。けれど一度愛されてしまえば、愛してしまえばもう、忘れることなどできないんだーーーー…」



ーーーーああ。君が来てくれた。

だから今日は暖かいなぁ=B



「ありがとう夏目、雪野、斑。心愛おしい」



私の友人ーーーー…。



「……馬鹿め…」



ふふ、斑お前にも、いつかわかるよ

一陣の強い風が吹いた時、露神の姿はなかった。

その日雪は明け方まで降りつもった。森にも、山にも、街にも。



「『(ツユカミさまはハナさんに逢えただろうか)』」



誰もいなくなった祠を思うと、少しのさみしさがあったけれど、不思議と、その日の雪は寒くはなかった。



「まぁタカシ君熱がこんなに」



次の日ハナさんのもとへ出かけようとした夏目と雪野だったが、夏目の顔が赤いと雪野が塔子に訴えて計らせると熱があった。



「雪の中で何していたの」

「あ、いえ…」

「何が食べたい!?」

「…あの今日はお線香をあげに行きたい人がいるんですけど」

「駄目よ後日になさい死んでしまうわ」

『貴志君、とりあえず私が先に行って…』

「駄目よ!雪野ちゃんも顔色悪いわ」

『これはもとから…』

「とにかく、今日は一日安静にね」



ということで夏目は布団の中、雪野はその看病に。



「軟弱な奴め……」

「うるさい」

「…ん?まてよ?今ならパクッといけるかも」

「…………」



お粥を持ってきた雪野はなぜかケンカをしていた夏目と斑に一喝した。



『やめなさい!』



相変わらずの斑…さわがしい日々が続くのも。

妖怪のことはあまり好きにはなれないが、愛しいものと、わかりあいたいと思う心は同じかもしれない。



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