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「的場様ですか?離れの三階にお泊まりでしたが」



罠だろうがなんだろうが、夏目がいなくなってはコソコソする必要もない。フロントですぐさま的場の部屋を尋ねたのだが…。



「ついさっきチェックアウトを」



にこやかに女将が告げれば、雪野と斑と名取はまさかのことに大ダメージ。



「…早っ…」

「くそう後手後手ではないか。お前のことは今まで「うさん臭い奴」だったが今日からは「裏目」だ!「裏目の名取」だ!!」

「……何か言ったかねこまんじゅう」



夏目と斑の、名取と斑バージョンの喧嘩が始まり雪野は止めるべきかと悩む。

ーーーーザワ…



『!』



嫌な気配を感じて、雪野は顔を上げた。



『!先生、名取さん』



雪野の声に喧嘩を一時中断した斑と名取は、窓から外を見下ろした。



「!あれはーーーー…?」



白いワンピースを着た黒髪の女性が、宿から走り去る姿が見える。



「む。森へ向かっている…」



向こうに見える森を雪野は見つめた。



『貴志君ーーーー…』



すぐに、雪野たちも宿を出て森へと向かった。























「あいつが来る!!!」

「!」



ーーーーひゅっ.

雪野たちが見かけたあの女性に襲われそうだった夏目。女性と夏目の間に、何かが舞い降りた。



「先生…」



ーーーーカッ.



「う…」



いつもの光を放った斑。眩い光に夏目は薄っすらと目を開けた。大抵の妖は、この光によってダメージを受けるはずだが…。



「!」



女性は光がおさまると、すぐさま第二撃を与えるべく杖を振るった。

ーーーーガンッ.



「さがりなさい夏目」



斑を抱きしめ庇った夏目を狙う杖を、名取が同じような杖で防ぐ。



「あんた、何やってんだ」



珍しく声を荒げた名取は、杖を弾きかえす。



『貴志君!』

「名取さん、雪野」

「私の光が効かなかった…!?」



どういうことかと驚く斑。



「…先生、この人の声だ」

「…む?」



よくよく聞いて、夏目は思い出す。



「あの、人が創ったっていう紙面の妖から流れ込んできた悪意は…あの時の夢の声はーーーー…」



ずっと、的場の式だと思っていた女性を夏目は半信半疑に見つめた。



「…あなたは…人?」



恐る恐る尋ねた夏目に、女性は笑った。



「勿論」



乱れた黒髪の隙間から覗く目が細まる。



「ーーーー…腕のある、呪術師…私と同業だった人だ」



硬い表情で女性を見つめる名取の言葉にえ。と夏目は女性を見つめた。



「…妖を作って襲わせていたのはこの人…?」



一連の事件は、的場ではなかったのだ。



『…同業だったって、どういうことですか?』



過去形に、雪野が尋ねる。



「ーーーー彼女の式が、的場の妖に食われたことがあって…以来、引退したときいている」



ほんの少しの躊躇いを交えて名取はそう説明した。

ーーーー式を、食われた。そんな話に、空気がざわめく。



「ーーーーふふ、そうだよ。血を集めているのは私だ。的場を」



足元に置いていたランプを女性は手に取る。



「あの男を」



暗がりに慣れた目が、明るい光に照らされ夏目たちは目を細める。



「食ってくれるような妖を目覚めさせるためにね」



夏目たちの背後には、洞窟いっぱいに大きな体があった。





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