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3


「いらっしゃいませー」

「すみません。この宿について少しお尋ねしたいのですが」



宿についた時には、びっしょりとずぶ濡れだった。



「あの、家出中の弟を探していまして、我々の事は出来れば内密に」

「あらあら。お力になれることがあれば…」



コソッと小声で伝えた名取に女将は驚きながらも了承。



「お客さん、村の外からいらしたの?」

『はい』



雪野が頷くと、女将は世間話をするように笑って言った。



「今の雨で、村の入り口のトンネルに落石が。明日まで不通らしいですよ」

「「『ええーーーー!?』」」



ショックと衝撃に絶叫。



「と、塔子さん。すみません。え…ええ…はい…はい…はい…ちょっと一泊…はい…」

「えっと…明日はオフだよね?ああ…わかってますよ」



もう大慌てでそれぞれ連絡。

突然の大雨により、夏目たち一行は的場が泊まっているらしい小さな宿に、一泊することとなってしまった…。



「鉢合わせすると面倒なことになりそうだからね」



用意された部屋も確認し、荷物を置いて名取は立ち上がる。



「君は部屋を出ないほうがいい。私は様子を見てくるよ」

『私も行きます』

「すみません……」



名取に雪野もついて行き部屋を出て、見回りを始める。



「夏目についてなくていいの?」

『先生がいますから。名取さんも心配ですし、手伝ってもらってるから少しぐらい何か…』



呟くように雪野が言えば、名取は意外そうに見下ろす。



「雪野」

『!ニャンコ先生』



とてとてと斑が雪野たちを追いかけてきた。



「とう!」

「うっ」



助走をつけてジャンプした斑が名取の肩に飛び乗り、名取から呻くような声が聞こえて雪野はぎょっとする。



「むむ、いつもより見晴らしが良いな」

「…まったく。なぜついて来るんだ猫ちゃん」



痛めたらしい首をさすりながら名取は呆れつつ問いかける。



「お客様、館内に猫ちゃんは困ります」

「よく見てくださいぬいぐるみですよ頭デカイでしょう?」



注意を受けて、慌てて名取は誤魔化す。なるほどと納得して、女将は去っていった。



「夏目が心配して騒ぐから来てやったのだ。雪野のついでに守ってやるから、文句なら夏目に言え」



小声で斑がそう伝えれば、名取ははぁ…と仕方なさそうにため息。



「ロクでもない奴のようだな。的場ってのは」

『名取さんから見て的場さんってどうなんです?』

「恐い人さ。危険な妖でも恐れず使うし、目的の為なら従えていた妖を餌にしたりもする」



ああ。と斑は思い出す。



「そういえば餌にされた妖鳥が夏目の所に逃げ込んできたこともあったな」

「容赦がないんだ。特に妖には」

『ーーーー…』



妖鳥の時を思い出したのか、雪野は表情を少し暗くさせた。



「お前、いつも妖を連れ歩くくせに今日は置いて来たな」

「ーーーー別に意味はない。今は連れてこなかったことを後悔して…あっ」

『どうしました?』



部屋まで戻ると、名取が驚いたように声を上げるので何かと雪野は首をかしげた。



「しまった。護符を貼っておいたのに君が出る時破ったな」

「むむ。それで戸が固かったのか」



戸の下の方には破れた札が貼ってある。



「何してくれてるんだ猫ちゃん。何か来てたらどうする」

「ニャンコに破られるチンケな護符を貼るお前が悪い」

「くそう。いちいちうまくいかないな…」



睨み合う名取と斑のどす黒いやりとりは無視して、雪野は戸に手をかけた。



『貴志君、ただいまーーーー…』



部屋の中の窓が開け放たれその付近はびしょ濡れで、風にカーテンがなびいていた。

夏目の姿は、ない。


















「「『(あきらかに何か来た!!!)』」」



もうそうとしか思えない状況だ。



「な、夏目!?」

『貴志君!』

「夏目」



部屋中の扉という扉を開けてあちこち探すも、返事もないし姿もない。



「ーーーー…!!いない…」

「ーーーーまずいな…」



目を見開き、雪野は血の気を引かせた。



「連れていかれたか」





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