4
「『あ』」
真っ逆さまに、追いかけていた影が落下して雪野と名取は顔を青ざめぎょっとする。
「この辺りに落ちたと…」
『(あれ?ここ…)』
夏目達を探してやって来た場所は、あのお祭り会場だった。
ーーーーだっ.
「あっ、雪野!」
駆け出した雪野は名取の声も無視して石段を駆け上がる。
『(確か、この上のお堂で貴志君は…)』
「う…わあああっ」
のぼりきり、あがった息を整えていた雪野ははっとお堂を見た。
『(貴志君?)』
お堂から聞こえてきた悲鳴に反応したが、思わず足を止めた。
『(な、なにあれ!?)』
お堂の入り口にいる黒くて人のような姿形をした妖に、雪野は軽く引く。しかし、すぐに我に返りお堂へと飛び込んだ。
ーーーーどかっ.
『人の友人に何してんのよ!この誘拐犯』
今まさに、封と記された袋に二人がかりで夏目を押し込もうとしていたうちの一人に雪野は飛び蹴りした。
「雪野!?」
なんとか袋詰めされずにすんだ夏目は、雪野に驚いていたが伸ばされた手にはっとする。
「う…」
ーーーーガンッ.
「退きなさい、的場に仕える妖」
夏目の前に飛び出し、杖で妖を弾き返したのは名取。
「彼はこの名取の友人。これ以上、彼への無礼を名取家は許さない。帰って主に伝えなさい」
任務を全うするかしないか。力の差もあってか、妖達は名取の言葉を聞き入れすぐさまお堂から去って行った。
「……名取さん」
「やあ」
「夏目無事か…あっ」
『先生』
戻ってきた斑と柊も交えて、お堂の中で腰を落ち着ける。
「ーーーー無事でよかったよ夏目」
「阿呆!きさまの紙人形で落ちたんだぞ!!」
『(だから落ちたのか…)』
「…さっきはどうも…なぜ名取さんがここに?しかも雪野と一緒に」
もうすでに夏目はボロボロで、疲れ切ったように問いかける。
「ちょっと心配でね。彼女とは電話をして合流したんだ…なぜ的場の妖に追われていたんだ?」
「…さっき、的場さんに会って…」
口が重たそうに夏目は説明する。
「ーーーー会ったと言っても、妖を襲わせている所を邪魔して、名乗らず逃げてきてしまっただけだけど…」
夏目の硬い表情に、雪野は心配そうに眉尻を下げた。
「雪野から大体は話を聞いたけど…妖の血を集めているらしいんだってね」
「はい。何か術に使うのではないかと…」
「妖の血で行う術…聞いたことはある気がするが……」
『それにしても、一言私にも言ってくれれば良かったのに。手伝ったよ?』
なぜなのかと不思議そうにする雪野に、夏目は曖昧に笑う。そんな対応に思わず雪野は面食らった。
「ーーーー確かに気になるな」
夏目と雪野のやりとりを眺めていた名取が口を開く。
「少し調べてみるかい?」
「え!?いいんですか?」
すぐさま反応した夏目に、なんとなく雪野はため息。
「いつも手伝ってもらっているからね。今回はこちらが手伝おう」
「ーーーー名取さん…」
微笑む名取に、夏目は笑顔を浮かべた。
「本当にただで!?ただで手伝ってくれるんですか!?」
「え、あ、うん…」
なかなかにショックを受ける名取に、雪野は堪えきれず噴きだした。
ーーーーこうして、羽の妖を柊にまかせ、名取とこの件を調べることになった。
next.▼ ◎