特別編5
「あらあら鈴木さん。今日も絶好調に顔色悪いわねぇ」
『……』
それは絶好調と言えるのだろうか。
内心雪野は不服そうに呟く。
「お家の方には連絡しておくから、今日は帰りなさい。あと一限だけだし」
『はい…』
「お大事にね」
ため息しつつ保健室を出て、リュックを背負い歩き出す。
『(塔子さん、心配してるだろうな…)』
申し訳なくてもう一度ため息する雪野に、前方からパタパタと駆けてくる姿が。
ーーーーどんっ.
「あ」
『わ!』
何かにぶつかったと驚き見下ろした雪野。地面に尻餅をつく子供に、顔を青ざめた。
『ご、ごめん!大丈夫!?』
慌てて屈み込んだ雪野にびくりと子供は身を縮こまらせて、頭にかぶる帽子を握りしめる。
『ケガとかしてない?』
ん?と雪野は、子供の背後に見えたものに目を点にさせた。ふさふさの、尻尾が子供にはえている。
『(え…尻尾?妖?)』
「ーーーー…夏目の匂いがする」
『へ』
嬉しそうに顔を上げた子供は、雪野をじっと見つめる。
『ーーーー夏目君の知り合い?』
雪野が問えば、子供はパッと嬉しそうに笑って頷いた。案内してやろうと、雪野は子供の手を引いて来た道を引き返す。
『私は鈴木雪野。君は…狐?』
ギクリと、身を硬くした子狐にクスクスと雪野は笑う。
『妖には慣れてるから、隠さなくてもいいよ。ここまでは一人で来たの?』
「…うん」
『歩いて?』
「違う。電車に乗って」
電車!?
文明の利器に頼ってきたということに雪野は、妖も使うのかと想像する。
『すごいね、まだ小さいのに』
「…一度だけ母さまが、教えてくれた」
俯き加減にぽつりと呟いた子狐に、雪野は何かを察したのかそれ以上何も尋ねなかった。
学校まで来ると、ざわざわと賑やかな声が聞こえてくる。
「ここは…」
『学校だよ。あ…ほら、あそこ』
グラウンドにいた夏目を雪野が示すと、子狐は嬉しそうに笑顔を浮かべてフェンスに駆け寄った。その様子を眺めていた雪野だったが、くるりと振り向いた子狐に何かと目を瞬かせる。
『あっ。どうしたの!?』
夏目に声をかけることもなく、子狐は走り出してしまった。
「雪野?」
声に気づいた夏目が、フェンスに歩み寄る。
「帰ったんじゃなかったのか?」
『貴志君に会いに来たっていう子狐を案内して来たんだけど…』
「ーーーー子狐…?」
心当たりがあるように呟いた夏目は、雪野に子狐が走り去った方向を聞くとすぐに追いかけた。
『ただいまー』
「ああ、おかえりなさい雪野ちゃん。よかったわ、帰りが遅いから生き倒れてないか心配で…」
『す、すみません』
オロオロと出迎えた塔子に、しまったと雪野はすぐに謝った。しばらくして帰ってきた夏目は、子狐を送って行ったと言う。
「今度、あの子のところに連れて行くよ。道もちゃんと覚えたからさ」
そう笑う夏目に、楽しみにしてると雪野も笑った。
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