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鬼もいなくなり、カイは気絶している雪野に歩み寄った。
「…雪野…ーーーー…祓い人のくせに、なぜ庇ったりするんだ。そんなことしてももう許さないぞ」
ふと、見下ろしたカイは落ちている紙束を見つけた。
「ーーーー「友人帳」?そうかお前…多くの妖を従えているっていうあの鈴木か。やっぱりひどい奴じゃないか」
ーーーーそうだ。友人帳を拾い上げてカイは笑う。
「オレを騙したしかえしに、これを隠して困らせてやろう」
クスクスと愉快そうにカイは笑うと、どこに隠してやるかと考え始めた。クスクス、クスクス…笑っていたカイは、雪野の顔を見ると笑い声を止めた。
「……やっぱり、雪野が困るのは嫌だなぁ」
ぽつりと呟いた直後、カイはポロポロと涙をこぼすと、我慢することなく声を上げて泣いた。
「雪野ー」
「大丈夫かーーーー?」
ーーーー近くで、カイの泣き声がずっときこえていた。
なでてあげたかったのに体は動かなくて、その声は貴志君達が来てくれるまで側にいて、私の意識がもどった時には、カイの姿は消えていた。
『(友人帳…ちゃんと置いてある)』
隠そうか。その声も聞こえていたけれど、カイはそんなことしなかった。
ーーーー結局誤解はとけないまま、カイは町から姿を消した。不思議なことに辺りの大人達の記憶には、彼のことはほとんど残っていなかった。
「山へ帰ってしまったんだろうな」
学校の帰り道、出待ちしていた名取と雪野は話していた。
『夏目君に会って行かないんですか?』
「夏目とは朝会ってるからね。海に誘ったら「行きません」って即答されたよ」
ははは。と爽やかに笑う名取に雪野は何やってんだこの人は的な目を向ける。
「ーーーー…今回は出しゃばって悪かったね。古井戸の依頼をきいた時、君たちの町の近くだと知ったら片付けておきたくなってね」
『ーーーーえ』
「ーーーーそういうのを素直に話していればよかったんだけどーーーーどうもうまくいかないね」
『ーーーー名取さん…』
かける言葉を探して、つい雪野は顔を俯けてしまう。
「ーーーーじゃあね、雪野」
すぐに雪野は顔を上げたが、名取は既に背を向け去っていくところだった。
「ーーーーヤレヤレ」
遠ざかる背中を見送っていた雪野は、ん?と塀の上を見た。
「人との関わりもろくに出来ないくせに」
『先生』
塀の上の茂みから斑が顔を出す。
「夏目が待ってるぞ」
『え』
目を瞬かせた雪野は、斑の案内で夏目が待つという場所まで来た。
「名取さん行ったんだ」
雪野の姿を見つけた夏目は、腰掛けていた場所から立ち上がる。
『うん。海に行けばよかったのに』
「え。やだよ」
ぎょっと夏目は拒否して歩き出す。後を追って歩き出した雪野だが、ついため息。
「ーーーーだからあまり妖にかかわるなと言っているんだ」
ため息を見ていた斑がとてとてと夏目を通りすぎながら言う。
「いつもうまくいくと限らん。ささいなことですれ違うもんさ。それが嫌ならやはり、関わるべきではないのさ」
斑を見下ろしていた夏目と雪野は顔を見合わせ、再び斑を見た。
『ーーーー先生、なぐさめてくれてるの…?』
「阿保、いい機会だからお前の心の傷をえぐっているのだ」
気分を害して雪野は斑の頬をこれでもかと引っ張ってやった。
「雪野ー。夏目くーん」
あ、と顔を上げる。
「ーーーータキだ。クッキー渡してやれなかったな…」
「ちゃんと話すんだな」
「……ーーーーああ」
遠くで手を振るタキを見て、雪野は花冠を思い出した。
『仲直りとか、したことないんだ私…』
呟いた雪野を夏目と斑は見る。
『誰の背中も追わなかった…こんな想い、知らなかった』
寂しそうな小さな背中を夏目は見つめる。
『花冠、渡せるかな…まだ、間に合うかな…』
「…タキに習って、おれも作るから。一緒に渡そう」
優しい夏目の声に、嗚咽を殺して雪野は頷いた。
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