友人【後編】
名取とカイを探して森を走り回る。
「よう、名取の小僧」
藪から顔を出した斑が名取と柊を見つけた。
「ここにいたか…」
「出たな化けもの!!」
「ぎゃ!?」
ーーーーごんっ.
柊に枝で殴られた斑。
『あっ、名取さん』
「良かった無事か」
「夏目!雪野ちゃん!」
夏目と雪野も藪を突き抜けて見つけた。
「すみません。や、やばいことに…カイを止められなくて…名取さんを狙っています。早く遠くへ」
「そんなことはいい…危ないから早く帰りなさい」
『カイ、やっぱり井戸を探してるみたいです。見つけて、もう一度話して止めさせます』
軽く、雪野は拳を握った。
『…やっぱり選べません。カイも、名取さんも大事なんです!』
なんの話かわかった名取は、はっきりと答えた雪野を見つめた。
「…私のことも大事だぞ…」
「あっ、ニャンコ先生」
『忘れてた』
「…すまん、不気味だったからつい」
地面に倒れている斑に慌てて夏目達は声をかける。
「雪野ちゃん」
何かと、雪野は名取に振り向く。
「さっきのは私が言い過ぎたんだ。君は敵ではないから攻撃的に言わなくてもちゃんと聞いてくれるのに、私はこういう言い方が癖になっているんだ。すまなかった」
敵、という単語に雪野は複雑そうに名取を見つめた。
ーーーーどろん.
「『わっ』」
「主様」
「とりあえずまきました」
いきなり現れた名取の使役する妖、瓜姫と笹後に驚く。
「ボ、ボロボロだ。大丈夫か…?」
声をかければ、不愉快そうにじろりと睨まれてしまった。
「ーーーーあの「カイ」ってのは、八白岳の山頂で水源を守っていた水神の類のようです」
瓜姫と笹後から話を聞く。
「水を清めるかわり供物が滞ったら岩で水源を塞いで、人がやってくるのを待つ妖だったようです。しかし最近はそれも人々に忘れられ、さみしくなって耳をすましていたところ、同じ水脈の古井戸から鬼共の叫ぶ声が聞こえ、麓へ降りてきたのでしょう」
「さみしさにつけこまれたか」
「………」
……う。と、辛そうに瓜姫と笹後が声を漏らす。
「……よくやった、休んでおけ」
「はい…」
「では御免」
瓜姫と笹後が姿を消すと、「休」という文字が記された紙人形がひらひらと名取の手のひらに。
「…柊も疲れているんじゃないのか?」
「ーーーー夏目…私はまだ平気だ。猫一匹殴っただけだ」
まだ何か言いたそうに斑はジト目を向けていたが、ふう、とため息をした。
「きっと井戸を開けて、仲間を増やしたかったんだろう。しかし井戸の情報を集める為人に混ざってるうち、それ自体が楽しくなって、もう鬼共の声にあまり耳をすまさなくなってきていたんだな」
カイのために、立ち向かってきた同級生たちを雪野は思い出す。
「まぁ今更蓋を開けても、出てくるのは正体を失った悪霊のようなものだろう」
ーーーーカイ…。
もし、開けてしまったらカイも危ないのでは?そんな不安に、雪野は難しい顔をして地面を睨んだ。
「ーーーー雪野ちゃんと彼が円満なら、私が出ると余計にこじれそうだ」
『え』
「勝てそうもないし手を退くよ。しかし古井戸は見つけて、封印し直しておいた方がいいだろう。二人とも、手伝えるかい?」
「『!』」
顔を見合わせた二人は、すぐに笑って頷いた。
「『はい!』」
ーーーーあ、と夏目は思い出す。
「でも、お仕事でしょう?依頼者は納得してくれるでしょうか…」
「…うんまぁ…それはいいんだ」
本当にいいのかと、目をそらす名取に思わずクスリと雪野が笑った時だった。
「雪野」
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