×
第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -


6


「む?」



くんくんと斑は鼻を動かす。



「いい匂いがする。こっちか?」



とてとてと、開け放たれていた部屋の中へと斑は入り込んだ。

ーーーービクッ.



「むむ」



動かしていた前足が、貼りついたように止まってしまった。



「何だ?動けん…」



戸惑いながら見下ろせば、床いっぱいに描かれた陣があった。



『…!?どうしたのニャンコ先生…』



通りがかった雪野が部屋に入った時だった。

ーーーーカサ…

紙が擦れるような音に振り向くと、大きな紙人形が姿を見せた。



『わぁーーーーっっ』

「雪野!?」



名取の紙人形かと、察するより先に雪野は紙人形に襲われた。



『!!?』



壁に押さえつけられたかと思うと、強い力で紙人形は圧迫してきた。



『(息が…っ…骨が、折れる…)』



雪野の体から、骨が軋む嫌な音が聞こえてきた。

ーーーーどん!



『!!?』



光と共に衝撃が来たのを感じた雪野は、苦しい圧迫がなくなり目を開けた。咳き込みながらも目を向けると、本来の姿に戻った斑が紙人形を噛みちぎっていた。



「雪野?先生?」

「くるな夏目、さがっていろ」



大きな音に慌てて駆けつけた夏目に斑はすぐさま言う。



「妖用に仕掛けられた罠がある。まだ何かあるかもしれん…」

「え…あ、ああ」



言われた通り、離れようと下がった夏目は、背後にある穴に気付かなかった。

ーーーーガラッ.



「!」

「夏目…」



落ちるーーーーと、覚悟していた夏目だったが、何かに手を掴まれ落下が止まった。



「!?」



一瞬の肩の衝撃に閉じた目を開けて、掴んだ相手を見上げる。笑う口元が見えた。



「大丈夫?ナツメ」



片手で夏目を引き上げたカイが、涼しい顔して笑いながら問いかける。明らかに、子供の力ではない。



「…カイ…」



戸惑いや混乱に、夏目は軽く拳を握った。



『…カイ』



床に座り込んでいた雪野は、振り向いたカイに尋ねた。



『ーーーーカイは妖なの?』

「ーーーーそうだよ」



きょとんとしていたカイが笑う。



「やっぱりばれてしまったか」



目を見張る夏目と雪野。



「…でも、秘密にして。今のこのくらしを気に入ってるんだ。それとも雪野は、妖は嫌い?」



見つめるカイに、雪野は少し考えて微笑んだ。



『ーーーーカイが好きだよ』



その答えに満足したのか、カイは嬉しそうにはにかんだ。



「人のくせに妖用にひっかかるとはおまぬけめ」

『…先生の臭いがくっついてたせいだよ』



目を吊り上げながら斑は招き猫に戻る。



「カイはなぜここへ?また雪野をつけて?」

「ううん。この辺りに妖を何匹も封じこめた井戸があるらしいんだ」



何気なく聞いていた夏目と雪野は、目を見張らせた。



「それ見つけて仲間を増やそうと探してたら、二人がここに入っていくのが見えて…あの忌々しい祓い人の罠にかかったら大変だと思って」

『…祓い人って…』



ーーーー名取さんのことか…!

すぐに察した雪野は、気付いていたのかと言葉をなくす。



「雪野、ご免ね。おれ、妖祓いに狙われているんだ。はじめは雪野がそうかと思ったけど、違ってよかった」



空気が、ざわついてきた。



「小賢しいし雪野を危ない目にあわせたし…ああ、忌々しい…やっぱり邪魔だね」

『カイーーーー』



ぎゅ、とカイは雪野に抱きついた。



「探し出して片付けてあげる」



囁いたカイに、やばいと雪野は顔を強張らせた。



『待ってカイ…!』

「!」



ーーーーゴッ.

止める間もなく、カイは廃屋から姿を消してしまった。



『…カイ!!』



人なのか。

妖なのか。

大事なものが決められず、雪野は名取の言葉を思い出した。




next.
prev next