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「…雪野?」
道端の花壇の縁に腰掛けうな垂れていた雪野に気づき、夏目は声をかけた。
『…あ…貴志君…』
「どうした…いつもにも増して血の気のない顔をして」
どんよりと暗雲まで背負う雪野にちょっと夏目は引く。はあ、とため息して雪野はまたうな垂れた。
『……人か、妖か。貴志君は選べる…?』
俯いた雪野から突然そう問いかけられ、夏目は目を丸くさせ面食らう。
「ーーーー…」
『……ごめん、なんでもない…忘れて…私もわかんないんだ…』
しばらく雪野を見下ろしていた夏目だが、ぽん、と雪野の頭を撫でてやった。目を瞬かせてゆっくりと顔を上げた雪野に、夏目は微笑んでやった。
『ーーーーっ』
な、なんだろ。なんか照れる…!
赤くなった顔を隠そうと再び顔を俯けた雪野は、夏目が何かラッピングされた袋を持っていることに気付いた。
『それなに?』
「ああ、これか?タキの手作りクッキーだよ。カイがクッキー食べた事ないって聞いて、焼いたって」
軽く持ち上げて夏目は見せつつ説明すると、少し表情を暗くした。
「…カイのこと、よくわからなくて…だから、暫く近付かないでくれって言って、預かったんだ。事情がわかったら、ちゃんと話してねって納得してくれて……やっぱり、ちゃんと説明するべきだったかな」
『ーーーー…ううん』
明確には、雪野も返事できなかった。タキも妖に祟られたことがあるから、説明するべきなのか二人とも不安だったのだ。
『そうだ。カイについて、名取さんに聞いたよ』
名取に聞いたことを夏目に説明し、斑も合流して話に出た藪の井戸まで出向くことに。
「あれ?この辺りに藪があった気がしたけど」
見覚えのある藪が、全く見つからない。
「見たくないとき見え、見たいときに見えぬ。それが妖というものさ」
「くっそ〜。すごくテキトーなものにふりまわされてるって感じがしちゃうから黙っててくれ先生」
探す気ゼロの斑に苛立たされながら二人はそれらしき場所を探す。
「(…あれが例の廃屋か…)」
あ、と顔を上げた先に夏目は廃屋を見つけた。何気なく見つめていると、窓にゆらめく影を見てしまい息を呑む。
『貴志君?』
「今、廃屋の窓に人影が…誰かいる…?」
『え』
雪野も廃屋を目を凝らすようにして見つめた。その影は名取なのか、もしかしたらーーーー…。
「行こう先生」
「ええい」
カイかもしれない。そう思った夏目と雪野はすぐさま廃屋へと走り出した。
「すみませーん」
廃屋の中へと入り、声をかける。
「誰かいますか」
人影を見たのは、二階の窓だ。手摺が崩れた階段をあがり、二階へと行く。
『…カイ、いるー?』
「む、床がぬけそうだな」
「ぬけそうというか、あちこちぬけてしまっているな」
コンクリートの床はあちこち底抜けしてしまい鉄筋が丸見えだ。
「何もいないな。あの人影は何だったんだ…」
ぞわりと、夏目と雪野は背筋を震わせた。
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