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「そこには昔、この辺りを荒らしていた小さな鬼達を封じた井戸があるらしい。以来、井戸も隠されたが蓋を開けさせようと悪鬼達が妖を呼ぶようになったって話だ。まあ小物な妖ばかりで、今のところ井戸を見つけた妖もいないようだ」
「今のところ」はね。と名取は強調して笑う。
「でもアレだったら井戸を見つけて開けてしまえるかもしれないね」
『!可能性があるから、退治するんですか?…そんなやり方』
「何にしろ気味悪いだろ。人でないものが人に混ざり込んでいるなんて」
思わず立ち上がっていた雪野に名取はふざけた様子などなく、真剣な顔を向けた。
「何かが起きてからでは遅いんだよ。君がのんびり考えてるのは、カイが遠くにいるからだ。偽善的だよ。お世話になってる藤原さん達の近くにアレが、正体不明なものがもしいることを知ってもそんなでいられるか?」
正論でもある厳しい言葉に、雪野は反論できなかった。黙り込んでしまった雪野に名取は顔を背け立ち上がる。
「手伝えとは言わないよ。もちろん夏目にも…でも邪魔はしないでくれ」
『…名取さんの言ってることは、正しいんだろうけど…でも、友人が退治されそうなのに、見過ごせません!』
「雪野」
ビクリと、怒鳴られたわけでもないが、雪野は身構えた。
「そろそろ君にとって大事なものは、人なのか妖なのか決めたらどうだ。もう妖なんかに構ってもらわなくても、君を見てくれる人達が見つかったんだろう」
呆然と名取を見つめていた雪野は、ぐ、と拳を握りしめた。
『ーーーー仕方ないじゃないですか。人も、妖も、全部平等に見えて…決められたら、とっくに決めてますよ…っ』
声を荒げ、泣くのを堪えるようにして睨みつける雪野に、名取は口を閉じた。雪野も無言になり、沈黙がおりると強く吹いた風に葉が舞った。
「……髪に葉っぱが…」
『!』
気付いた名取が手を伸ばすと、雪野はビクッと体を強張らせ身をよじり躱した。すぐに背を向けその場から走り去る。
「君も用心棒だっていうんなら、いちいち首突っこませてるんじゃないよ」
「ガキが」
そう吐き捨て、斑も雪野を追ってその場を去った。
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