友人【中編】
『…カイが、妖…?』
人の中に紛れて、人の振りをしていられる程の妖ーーーー…!?
『………』
「とにかく、あの子からは手を引くんだ。いいね」
突然の告白に戸惑っていた雪野は、立ち去ろうとしていた名取に慌てて顔を上げた。
『手を引けって…カイを退治するってどういうことですか』
「そのままの意味だよ。これ以上君との関係を悪化させたくないんだ。この件には構わないでくれ」
夏目以上に壁のある名取と雪野の関係。罪悪感を感じて雪野は口を閉じてしまう。
『…名取さん』
「しっ、後日話すよ。今は時間がない、アレが来る」
アレ、と言う言い方にすぐに雪野はカイの事だと察してしまった。
「アレには私のことを話してはいけないよ。いいかい、アレが妖だと気付かない振りをしてやり過ごし、以後近付かないことだ。夏目にも忠告するんだ、いいね」
『名取さん………』
呼び止めようにも名取はさっさとその場を去ってしまい、雪野だけがそこに残された。
ーーーーガサ…
ビクリと、雪野は背後の揺れる藪を見た。
ーーーー「アレが来る」。
名取の言葉が頭の中で繰り返され、雪野の額を冷や汗が流れる。
ーーーーガサガサ…
藪の隙間から見えた笑う口元に、雪野は身構えてしまった。
「よかった雪野、ここにいた」
『…カイ』
雪野の様子に気付かずあれ?とカイは首を傾げた。
「話し声が聞こえた気がしたけど…誰かいた?」
『…………ううん…貴志君達は…?』
「あっちにいるよ」
そう笑うカイに、どうしても雪野は警戒してしまい表情が硬くなる。
「さぁ行こう雪野」
差し出された手に、雪野は躊躇してしまいなかなか手を伸ばさない。
「さぁ…」
もう一度声をかけられ、恐る恐る雪野は手を伸ばした。
「雪野」
「『わあっ!!!』」
雪野とカイの間に、藪から顔を出したのは斑。その風貌と突然の出現に雪野とカイは揃って声を上げた。
「よかった二人共、ここにいた」
「雪野、いきなりなんなんだよ。心配しただろ」
『透…貴志君…』
現れた夏目とタキに、雪野はどっと疲れたようにため息した。
『うん、ごめん…』
「カイもだめじゃない。急に走りだして」
カイの前に膝をついて、タキは注意する。
「…だって、雪野が心配だったんだ…」
申し訳なさそうにそう言うカイは、どう見たってただの子供だった。
『ーーーーうん、ありがとう』
さっきまでの不安や恐怖など忘れ、雪野はカイの頭を撫でてやった。
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