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塗装された道から外れ、林の中へと逃げ込んだ雪野は妖から逃れるべくカイの手を引き走る。
「…雪野。雪野、おれあんな奴平気だ、恐くなんかない」
『え?』
「だから、みんなに言わないで。おれまだここにいたいんだ」
足は止めず振り向いた雪野は、縋るように言ったカイに頷いた。
『ーーーーうん、誰にも決して言わないよ』
「本当?」
嬉しそうに笑ったカイに頷き、雪野は握る手に力を込めた。
「…雪野も見えるんだね。もしかして、ナツメやタキも?」
『夏目君はね。タキは条件がないと見えないけど、妖については詳しいよ』
「…いっぱいつらかった?」
『…それなりにね。だけど…』
この町で出会った人々や妖が脳裏に浮かぶ。
『……今は、そうでもないかも…』
「どうして?」
『どうしてかなぁ』
ふふ、と誤魔化すように笑っていた雪野は、ハッとした。
『(ここ、どこ!?)』
ーーーー確かに家の方に向かって走ってたはず…間違えた!?ううん、途中までは慣れた道を…。
『…あ…』
ぎくりと、雪野は寂れた鳥居を見つけて顔を強張らせた。
ーーーーここ、透が近づくなって言ってた場所…。
『(…引っ張り込まれた…?)』
ーーーーガラガラガラ.
また、あの音が聞こえてきた。しかもそれは徐々に近づき…。
『うっ』
雪野とカイを見つけた妖が、鉈を振り上げ軽やかな足取りで追いかけてきた。すごく不気味で血の気が引く。
『カイ、あっちに走って』
「!雪野」
カイの背を押した直後、雪野は腕を強く引っ張られた。振り向けば、妖が鉈を振り下ろす瞬間だった。
「雪野…」
逃げ出せず、強く目を閉じ身構えた。
ーーーーガッ.
何かに抑え込まれ、新たな気配に目を開ける。
『ニャンコ先生…』
本来の姿の斑が、妖を咥えていた。
「ペッ」
『わぁ!』
捨てるように吐き出された妖に雪野はドン引き。
「あっ。逃げた」
ちっこくなった妖はそそくさと逃げていった。
「逃したんだ阿呆。喰うと夏目がうるさいし、私はグルメだからな。妖気をかなり吸いとってやった。あんな小物、もう悪さは出来んさ」
ふん、と斑は鼻で笑う。
「夏目とタキが血相かえて呼びにきたから来てみれば…いつになったらお前たちは懲りるんだ」
『そっか、二人が…助かったよ。ありがとう先生』
ずい、と斑は顔を近づけた。
「感謝は晩飯で示してもらおう」
『…ごめん、今夜はソバだよ』
苦笑いだ。そんな雪野に、カイは笑った。
「雪野はすごいね。妖怪を従えているなんて」
目を瞬かせた雪野は、可笑しそうに笑う。
『従えてなんかないよ。まあ、助けてはもらっているけど…とりあえず、これでもうあの妖につけ回されることはないよ』
よかったねと、頭を撫でる雪野をカイは見上げる。
「…じゃあ、もう終わり?」
『会いにいっちゃだめ?』
尋ねた雪野にカイは笑顔を向けた。
「いいよもちろん」
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