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『(あの子が箱に入ってたのも、あの妖が原因…?)』
学校に登校し、花瓶の水換えから帰ってきた雪野はぼんやりと考える。
「あ、見て。門のところに小学生が…」
「本当だ、かわいい。誰か待ってるのかな」
クラスメイトの会話に、雪野も窓際に近づき門のところを見下ろした。思った通り、いたのはカイだ。気づいたカイが嬉しそうに笑うものだから、面食らいつつも、すぐに雪野も笑い返した。
『(子供、そんなに嫌いじゃないかも)』
遊びに来たカイと一緒に、夏目と雪野とタキは帰り道を歩く。
『(…私もいつか、心から人を好きになれるかな…)』
楽しそうに笑うタキとカイを眺める夏目。そんな様子を眺めていた雪野は、ふと思う。
『(いつか家族を、つくることが出来るのかな…)』
だとしたら、藤原さん達みたいな家族がいいな。
仲睦まじい藤原夫妻を思い出して、雪野の口元が緩んだ時だった。
ーーーーパサッ.
『え…なに?』
頭に何かが乗せられた。手で触れると、花の手触り。
「…タキが作り方教えてくれたから…色々のお礼だ…」
夏目とタキの頭にも乗せて、カイは最後に自分の頭に花冠を乗せると、これでみんなおそろいだな…。と、満足そうに照れ笑いを浮かべた。
「「『(なごむなぁ〜〜)』」」
ふわふわと、三人の心は癒される…が、夏目と雪野は耳に届いた、あの金属の引きずる音に目を合わせた。
『カイ、そろそろ何があったか話してくれない?』
「え………」
言い淀んでいたカイだったが、やがてその口を開いた。
「二週間くらい前から、何かの視線を感じはじめたんだ。電柱の後ろに人影を見たけど、ただの変質者か何かだろうとあまり気にしてなかったんだ」
「いやそこは気にしていこうな」
カイの気にする基準に三人は心配になる。
「でもだんだんその何かが、おれを捕まえようとしてる気がしたんだ。あの日はそいつに追いかけられて、廃屋に逃げこんで」
頭に花冠をしたまま、夏目達はカイを家まで送りつつ話しを聞く。
「箱に隠れたら鍵をかけられて、出られなくなってたんだ。そこを雪野が助けてくれて…」
「…そうだったのか…」
『…』
訝しそうに、雪野は顎に指をかけて考える。
…あの時確か、鍵なんて……。
「あぶない!!」
『きゃっ…』
突然雪野を押し倒したカイ。直後、雪野の頭があった辺りを鉈が通り過ぎ壁にぶつかった。
「!?雪野!カイ!」
「…どうかしたの…?」
目の前には、見かけた時より大きくなったあの妖。夏目や雪野には見えているが、タキは陣がなくては見えない。
『ーーーーカイ、君にはあれが見える?』
「…雪野…?」
戸惑っていたカイは気づいた。
「雪野もあれが見えるのか…?」
『!』
振るわれた鉈を慌てて雪野は避ける。
『貴志君、透をお願い!』
「でも…」
『私はカイを連れて逃げるから』
カイの手を取り、雪野は走り出した。
「…え!?雪野…」
「ーーーー逃げるぞタキ!」
「夏目君!?」
タキの手を引き夏目も反対方向へ走り出した。
「なに?まさか、妖?」
「ああ。多分カイを狙ってる妖だ」
ちらりと、夏目は振り向く。妖が追いかけてくる気配も姿もなく、雪野たちを追いかけたようだ。
「タキはこのまま、真っ直ぐ家に帰るんだ。俺は先生を探すから…」
「私も行く」
「タキ…」
「お願い。私にも手伝わせて」
真っ直ぐな瞳に、折れるのは夏目の方だった。
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