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『それよりその、つけ回してるって奴について話してみない?ちゃんと警察に言ったほうがいいかもしれないし』
「…いいんだ。大したことじゃないし、言っても意味がない」
嘘や誤魔化しのない目に、既視感を覚えた雪野は口を閉じた。
「……とにかく、謝ったからな。もう放っといてくれ…」
地面に座り込んでいる少年の様子がおかしいことに、眺めていた夏目は気づいた。
「どうした」
「!別にどうもしない…」
右足を庇うようにしている少年に、なんとなく察する。
「おい…」
「いいから。あっち行けって言ってるだろ」
ムキになって少年が言い返した。
「いつまで意地張ってんだ!大変なことになってからじゃ遅いんだぞ!」
怒鳴った夏目に少年は口を噤んだ。すぐに夏目は相手は子供だと、申し訳なく謝罪した。
「怒鳴ってごめんな」
『足、どうかしたの…あ。赤くなってる』
「足首軽くひねったのね。数日でよくなるわ」
ひねったのならば、痛くて歩くのは大変だろう。すぐに夏目はしゃがみ込んで少年に背中を向けた。
「乗れ」
「え、嫌だ…」
じろりと睨めば、少年は素直に夏目に背負われた。家の場所を聞いて、少年を送っていくことにしたのはいいが、ぐすん、と少年から鼻をすする音が。
「(な…泣かせてしまったお子様を…)」
ギクリと、居たたまれなさと申し訳なさと、不甲斐なさに困惑。妖相手と、人の相手は勝手が違いわからない。
「(どうすれば、心配していると伝わるんだろう)」
『カイ、貴志君は怒ってないよ』
ぽん、と雪野がカイの背中を軽く叩く。
『心配しているのにカイが意地を張るから、つい怒鳴っちゃっただけだよ』
「雪野…」
ーーーー…ガラガラ.
背後から、金属の重たいものを引きずるような音がした。何かと夏目と雪野は振り向いたが、何もおらず気のせいかとやり過ごす。
「…違う…そうじゃない…」
ぐすんと。震える声でカイが言う。
「…こんな迷惑かける気はなかったんだ」
小さな声に耳を傾ける。
「…見かけたら右手にけがしてたから…ひょっとしておれを助けたせいで、おれを狙ってる奴に襲われたんじゃないかと思ったんだ…だから…今度はおれが守らなくちゃと思ってつけてきたんだ」
『…そっか。ありがとう』
まだ泣いてる様子のカイの頭を、優しく雪野は撫でてやった。
たどり着いたカイの家は大きく、まだ誰も帰ってきていないようだった。
「…じゃあな」
なかなか懐いてはくれない様だけれど、悪い子ではないようだと、門柱から挨拶したカイがぴゅっ。と姿を消す姿に満場一致で思った。
『私、守らなくちゃなんて言われたのはじめて』
「何!?」
「おれも言われてみたいなー」
「お前たち私を何だと思っとるんだ!」
「私にも出来ることは協力させてね」
『ありがとう透……』
タキとはそこで別れたが、気がかりなことがまだあった。
ーーーーガラガラガラ…
チラリと振り向けば、藪の辺りで見かけたあの妖が鉈を引きずっていた。こちらに気づくと、脇道へと消えた。風貌と鉈にぞっとする。
『…やっぱりいたね』
「見たか先生」
「ああ、あの妖大分腹が減ってるようだぞ」
雪野に抱えられながら呑気に斑は言う。
「…カイのことを狙ってるのか?」
「だろうな。あのガキ何か美味そうなニオイがする。しかし放っておけ。あの妖は所詮小物だ」
『小物でも、私さっき腕を切られたよ』
「何!?」
ぐわっ。と斑がお怒りを表し前足を振り上げた。
「お前たちが喰われて友人帳が手に入るのは大歓迎だが、あんな小物に私のものを傷つけられるのは微妙だ!わかるか私のこの微妙さが!」
「『はいはい』」
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