友人【前編】
『う…寒い』
斑の散歩中。冷たい風に雪野は身を竦めた。
「これしきで軟弱な」
『獣はいいねぇ』
「にー。にー」
可愛らしい小さな鳴き声が聞こえてきた。
『あ、猫だ』
塀の上にいる真っ白な子猫を見つけた雪野は、嬉しそうに笑った。
『かわいい。私猫大好きなんだ』
「何!?」
さらりと言った雪野の言葉に斑は目を吊り上げた。
「初耳だぞ!?ならばもっと私を敬え!愛でろ!!」
キャー…。
『…ん?』
斑の抗議を軽く流していた雪野だったが、斑の声に隠れそうな微かな悲鳴が聞こえた。
『…ニャンコ先生。今この廃屋から、悲鳴が聞こえなかった?』
目の前の廃屋を見つめた雪野は、辺りを見渡して門をそっと開けると、廃屋の中へ。
『ーーーー…おじゃましまーす』
一応、声をかけて踏み込む。外もそうだが、中も壁や床は所々崩れており、置き去られた家具ももう使い物にならない。
「ひどいボロ屋だな。勝手に入っていいのか?」
『よくないけど、悲鳴が聞こえたから。見つかったら逃げればいいよ…』
ーーーーガタッ.
上の方から聞こえた物音に顔を上げる。途切れ途切れにその音は聞こえて、雪野は二階へ向かった。
音の出どころは…。
『和室…箱がある』
「ああ」
長方形のその箱は、人一人入りそうでまるで棺桶のようだ。何気なく眺めていると…。
ーーーーガタガタッ.
「『わーーーーっ!動いたーーーーっっ』」
動き出した箱に雪野と斑は顔を青ざめて抱き合った。
ーーーーあ、妖!?
「…ろ…せ」
逃げようかと考えていた雪野ははっとした。
「…あけろ!あけろ、出せ」
箱の中から声が聞こえる。
『い、今開ける!』
「!まて雪野ら妖か何かが出てくるかもしれんぞ…」
ーーーーがこんっ.
そんな斑の警告も聞かず、慌てて箱を開けてしまった雪野は、目を瞬かせた。箱の中にいたのは、ランドセルを背負った少年だった。涙を浮かべた目が雪野を捉える。
『だいじょ…』
「うわあああああーーーーっ」
ーーーーゴッ.
『いたあっ!!!』
「ぎゃ」
勢いよく飛び出した少年の頭が雪野の顎に直撃。倒れ込んだ雪野に斑はぎょっとする。子供は脱兎のごとくその場から逃げてしまった。
『うう…な、何でこんな箱に子供が…』
「イジメか…?かくれんぼでもしてたのか」
『んー…ん?』
子供がいた箱の中に、何かを見つけた。拾い上げるとそれは名札で、「東小学校五年三組 石尾カイ」とあった。
▼ ◎