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4


「雪野」



はっと、我に返った雪野は目を見張る。

ーーーーカッ.

前に出た斑が光を放ち、その隙に夏目が雪野を引きずり出した。



「!!貴志君、先生」



半ば引きずるように夏目は雪野を連れて走り出す。



「くそう。奴め雪野の力を吸いとってまたでかくなったぞ」



隣に並んだ斑が腹立たせて言う。何が何だかの雪野の頭に疑問符が浮かぶがそれどころじゃない夏目と斑。



「早い所追い払わんと、まずいことになるぞこの家」

「!」

『…あの妖を追い払えばいいの?』



この家の危機と聞いた雪野が目を鋭くさせて問いかける。



「ああ」

『なら、わかるかも方法。食われかけた時、一瞬妖の記憶が見えた。レイコさんの追い払い方も少し』

「本当か!?」



目を丸くさせる夏目。



『デタラメになるかもしれないけど、教えるから…あの、任せていい?すっごく怠い…』

「軟弱な奴め!夏目、しくじったら今度こそ食われるぞ」

「やってみせる」



前を見据える夏目の受け答えは力強い声だった。



「たぶんあれはカリメという妖だ。気に入った家の者に災いをもたらして追い出し、自分が住みつく。しかし、この家ではレイコに追い出され…最近見かけたお前を、レイコだと思って復讐にでもきたんだろう」



だから斧投げられたのか。内心雪野は納得して夏目に同情した。



「雪野、頼む」

『うん。まず…』



誰もいない部屋に入り込み、大量の紙と筆を用意し、妖を追い出す準備を始める。



「ーーーー…くるぞ」



筆を口にくわえた夏目の周りに、雪野と斑は待機する。直後、障子の向こうに現れた大きな影が障子を開けた。

ーーーーサァッ.

天井よりも大きな体を曲げて、カリメは正座して構えていた夏目を見下ろした。



「レイコさんはもう亡くなっている。この家も譲ってやるわけにはいかない。この家の人達をもし苦しめるなら」



夏目はカリメを見上げた。



「悪いが出ていってもらう」



床を埋め尽くすほど散らばった紙には大きな二重丸。その中央に出口と書かれてあった。



「ひっ」



出口の文字を見たカリメが怯える。

ーーーーずぼっ.



「ギャッ!!!」



カリメの足が二重丸の中についた瞬間、カリメの足は紙を突き抜け沈んだ。



「落チル。落チル」



ばさばさと紙が、カリメが暴れると共に辺りに舞う。徐々にカリメの体が沈んでいく。



「ギッ…」



はっと夏目と雪野は身構えた。



「ふせろ夏目、雪野」

「『!』」



ーーーーカッ.

カリメから眩い光が放たれたかと思うと、軋む微かな音がした。

ーーーーばんっ.がたがた.

吹き飛ぶ障子の音と大きく吹き抜けた風の勢い。それが収まりを見せ、ばさばさと紙が辺りに舞い落ちる。



「う……やったか…?」



恐る恐る、夏目と雪野は伏せていた体を起こす。カリメの姿はない。



「気配はもうないな…」



ほっ、と夏目と雪野は安心した。



「(守れたんだ…おれでも…)」



一安心し、夏目は大きく深呼吸し、脳裏に浮かんだレイコの一言に同意した。



「…しかし」



斑がゆっくりと口を開く。



「ひどいな………」



その一言にも夏目は同意だった。外れてしまった障子。その障子の紙は穴だらけのものまで。衝撃に辺りは紙くずまみれ。ボロボロの部屋に雪野は顔を青ざめた。



「まずいな…障子何枚か貼り直さない…小遣い足りるかな…」

「と、とりあえずはめろ」

『ガムテ、ガムテどこだっけ』



大慌てで部屋を片付け始める。



「しかし、レイコはこの惨状でやり逃げしたとは……本当にろくでもない女だな」

『そう言えば』



あ、とガムテープを千切りながら雪野は思い出す。



『ここは、「お気に入りの子の家」だったんだって』

「ん?」

『妖の記憶で見たレイコさんが言ってた。と言うか、レイコさんってここに来たことあったんだね』



知らなかったと、今更ながら驚く雪野は、ふと思う。

ーーーーミヨさんは、来なかったのかな…。



「…そっか…レイコさん、そんなことを…」



ふっ、と夏目は笑う。

ーーーーレイコさん、そういうのはーーーー…。



「(「私の友達の家」っていうんだよ)」



ーーーーけれど、たぶんレイコさんは、ひとりで居すぎて、そういう感覚がわからない人だったんじゃないだろうか。



「(もしかしたら、ミヨさんも…)」



ーーーーそういうところが、多くの心を傷つけたかもしれない。ひょっとしたらそれは、レイコさん自身も。



「…おれも、ここに来るまではそういうことで人を傷つけたかもしれないな…」

「何?」



一体いつまでここにいられるんだろう。

一体いつまでこのままでーーーー…。



「それにしても…」



ちらりと、夏目は雪野が拾う紙を見た。



「レイコさんって、結構術的なことに詳しいんだな」

「そうか?こんなのは初歩だぞ」

「…初歩だって誰かにきかないとわからないだろ」

『案外、ふんじばった妖を脅して聞きだしてたり』



冗談っぽく笑う雪野だが、夏目はなんだかそれが正解な気がして複雑そうに笑う。

ーーーーその時だった。



「貴志?雪野?」



ピクリと。声に夏目と雪野は表情を消した。



「どうした。さっき、こっちからすごい音がしたが…」



滋の声だ。障子のすぐ向こうに見える影にはっと、二人は心臓を跳ね上がらせる。



「…?どうした?…障子…破れてるぞ?貴志…」



ただ事じゃないかと障子を開けた滋に、夏目と雪野は一気に血の気を引かせ、頭が真っ白になった。



「…どうしたんだこの部屋…何があった」

「なっ、何でもないんです!!」



仰天する滋に慌てて夏目と雪野は意識を戻す。ボロボロの部屋を見て滋は目を瞬かせる。



「…これじゃまるであの時と…」

「おれが」



滋の声にかぶせる夏目。



「ふざけすぎてしまって…」

『私も悪ノリしてしまったんです…!すみません』

「弁償します。すみません…」



必死に謝る夏目と雪野を面食らうように見下ろしていた滋は、二人の目を見て微笑んだ。



「ーーーー弁償はいらない。ここは君たちの家だと言っただろうーーーー…」



大きな掌が、夏目と雪野の頭を撫でた。その優しい温もりに、二人は罪悪感を感じる。

この人達に、嘘をついてしまうのか、と。



「(ああ、それが嫌でレイコさんは、もう会いに来なくなったのだろうか)」





またひとりに

なったのだろうか。





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