3
「きゃーーーーっ」
塔子の悲鳴が聞こえた瞬間、夏目も雪野も部屋から飛び出し庭先へ。
「ど、どうしました塔子さん」
「あっ。貴志くん、雪野ちゃん。大声出しちゃったけどたいしたことじゃないの」
ごめんなさい。と塔子は心配そうにする二人に笑うと、花壇を見下ろした。
「ホラ、花壇の花がスポスポ抜かれちゃってて…野犬でも迷いこんで来たのかしら」
花壇を見ると、綺麗に植えられていた花々は土から引き抜かれ根がむき出しに。花びらも散ってしまっている。
「ひどいな。踏み荒らされている……ん?」
よく見ると、足跡は四本指の丸っこいもの。
「お前かニャンコ先生!!ニャンコな足跡だぞ。お花を荒らすなんて」
「阿呆!!私はお花を華麗に避けとるだろ。よく見ろ。足跡ならもうひとつあるぞ」
はっと、夏目と雪野も気づく。猫の足跡に混じって、大きな足跡が。人間の足跡に似ているが、指が六本だ。その足跡は、夏目が家の前で見かけた足跡と同じ。
『…もしかして斧を投げた妖がついてきたってこと?』
「かもしれんな。人間に存在の痕跡を見せたがる妖は強力だ。この手の奴は悪戯がエスカレートしてとんでもないことになるぞ!」
「『………』」
ふふふ。と前足を上げて戯ける斑だが大した迫力はない。
『(落書きは「来ましたよ」のサインだったってことか…)』
夏目の話を思い出し雪野はため息する。
ーーーーその夜、ぱたぱたと何かが走り回る足音を夢現に聞いた翌日、雪野は再び体調を崩した。
『(妖の影響か!?)』
ズーン…となんだかわからないが雪野は落ち込む。もぞもぞと寝返りを打っていた雪野は、障子の向こうに走り去る人影を見た。
『(なにあれ)』
ぬるぬるした走り方に夏目ではないだろうと雪野は訝しみ、布団から抜け出した。
『(まさか、妖が?)』
ドキドキと部屋から出て、妖を追いかけ廊下の角を曲がる。そして、雪野は目を瞬かせ硬直した。曲がった先には、人型の大きな妖が待ち構えていたのだ。
ーーーーぐいっ.
『!?』
思わず身動きせず呆然と立ち尽くしていたら、両腕を引っ張り上げられた。
「この手の災いをもたらす妖を捕まえるのは難しい。追い払うのが一番…」
妖を追いかけてきた夏目と斑も、角を曲がりはっと足を止めた。
「「ぎゃーーーーっ。食ってるーーーー!」」
あむあむと。妖はお腹にある大きな口に雪野を入れていた。ぎょっとする夏目と斑は慌てて救出に向かう。
『………う……』
さぁ、出ていきなさい。
荒らすことは許さない。
ここは私のーーーー…。
お気に入りの子の家なのだからーーーー…。
▼ ◎