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仮家







「む?」



木の下でぱちりと。鼻提灯を膨らませていた斑は目を覚ました。



「…今のは夢か?一瞬、妖の気配を感じた気がするが…」

『どうしたの先生?』



リュックに柿を詰めていた雪野は首をキョロキョロさせる斑を不思議そうに見る。



「わっ。ニャンコ先生あぶない」

「ああん?」



ーーーーごんっ.



「はがっ!!!」



斑の頭に降ってきた柿。鈍い音を立てて直撃した柿に雪野はぎょっとする。



「すまん先生、手がすべった。大丈夫か?でも見てくれ。こんなに柿がとれたぞ」



木の上から降ってきた夏目は地面に着地して、腕に抱える柿を見せる。地面にのびていた斑が復活。



「気を付けんか阿呆ぅーーーー。サルカニ合戦では柿は立派な鈍器なんだぞーーーーっ!!」



怒る斑に夏目はごめんって。と怖がる様子なく笑って謝る。



「けど、こんなにいいのかな…他人の敷地なのに、もう少し遠慮したほうが良かったか」

『大丈夫だよ。この山、町内会長さんの土地でね、時々柿や栗をもらってるの。前は栗拾いしたし』

「へえ。すごいな、この辺り来たのはじめてだ…!?」



不自然に途切れた夏目の言葉。にこやかだった表情も強張っている。



『貴志君?どうかした?』

「寒気が…見られている気がする」

「…どっちからだ」



んー…。と、斑の問いに夏目は少し集中して考えると、遠くまで立ち並ぶ木々の向こうを指さした。



「たぶんあっち…あれ?」



丁度示した先で、何かが太陽に反射しキラリと光った。その光ったものが、徐々に近づいてくる。



「何かがこっちに飛んでくる…」



なんて眺めていたのも束の間。

ーーーーどかっ!!!



「「『!!?』」」



真横を鋭い風が通り過ぎた。



「「『(お!!?)』」」



背後の木に突き刺さるのは…。



「「『(斧!?!!!!)』」」



だった。情報処理が追いつき、斧と認識した夏目達は血の気を引かせ驚愕。



「な、何だこれは…木こりの手からすっぽぬけたのか?」

『あ、あっぶな…』

「せ、先生。今一瞬見えたんだ」

「ん?」

「あっちの木々のすき間から」



ひきつらせる顔を青ざめる夏目は、木々の向こうを見つめた。



「何かが、斧を投げる姿がーーーー…」



ゆらりと揺らめく白い影を、夏目は確かに見た。それはたぶん、妖怪。



「う…」



狙われたのは夏目達だった。



「『うっわぁぁあああーーーーっ』」



恐ろしくなり、夏目は斑を、雪野は柿入りリュックを背負うと一目散に山から逃げ出した。

町内会長さんには悪いが、しばらくあそこには近づきたくないと二人は思った。




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