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眉間にしわを寄せた夏目は、手のひらで目を擦った。



「ーーーーどうした夏目」

「…視界がぼやけてよく見えないんだ」



擦っても治らない視界の歪みに夏目はますます眉間にしわを寄せる。



「…瞳の色が少し陰っているようであります」

「むむ〜〜〜〜〜…」

「ん?ちょびひげの声がする…どこかにいるのか?先生」



きょとんと呟いた夏目に、斑とちょびひげの目が点に。



「何!?目の前に…私の隣にいるぞ」

「ん!?ーーーーーーーー………………」



目を凝らしていた夏目の顔から徐々に血の気が引く。



「ーーーー………まずい。見えない…」

「「「え!?」」」



絶望に似た心境で呟いた夏目に斑、多軌、ちょびひげの三人はぎょっとした。



「ああっ。きっとあの妖に眼球舐められたせいだ」

「「えーーーーっ!?」」

「相手の毒気のせいで、しばらく麻痺して始末までいるのかもしれませんな。視力が弱まって、妖である私が見えなくなっているのであります」

「ーーーーそんな…」



こんな時にと、夏目はがっくりと落ち込む。



「阿呆ーーーーっ。役立たずが二倍ではないかーーーー!!」

「…やっぱり…巻きこんで…」

「いや。これはおれが油断したから……雪野は見えているんだよな?というかさっきから喋ってないが…」

『…………もう…限界』



ーーーーふらあ.



「「「「!?」」」」



後ろへふらついたかと思うと、ばたん、と雪野は倒れてしまった。



「わー雪野!?」

「鈴木さん!」

「あ。こいつ目を回してるぞ」



青白い顔をしてうんうん唸っている雪野。



「彼女も毒気にやられたのでしょう。夏目殿以上に軟弱であります。鈴木殿はしばらく動けないでしょうな」

「……てことは…」



妖を見ることが出来る人が、誰もいなくなった。それを理解して、夏目と多軌の顔色が悪くなった。



「ど、どうしよう…」

「揃いも揃ってなんなんだ!役立たずが三倍だーーーー!!!」

「(…あきらかに…あきらかに巻きこんでしまってる…)」



がっくりと多軌は肩を落とした。夏目は雪野を背負い、多軌は藤原家まで付き添った。



「ありがとう多軌」

「ううん…鈴木さん…大丈夫?ーーーーなわけ、ないか…」



思い詰めたように無理矢理笑った多軌に、夏目は多軌の頭を撫でた。



「ーーーーまた明日」



まだ少し、気にした様子の多軌だったが、微笑んだ夏目に眉尻を下げて多軌も笑い返した。



『……たきさん…』

「雪野、起きたのか」



か細い声に気付き夏目は首だけ軽く振り向く。



『……』

「…ごめんなさい鈴木さん。私、絶対呪いを解いて助けるわ。鈴木さんも、夏目くんも、先生も」



力強い目をした多軌に、雪野は何か言おうとするが力尽きたように目を閉じた。

ーーーー違うよ、多軌さん…私が言いたかったのはーーーー…。



『(私が伝えたかったのはーーーー)』



ーーーー雪野が寝込んでいる間に、夏目と多軌は何とか妖を封印し、多軌の祟りをとくことが出来た。



『(…体の文字、消えてる)』



体調も戻り、制服に着替え夏目と斑と共に学校までの道を歩く。



「おはよう二人とも」



声に振り向くと、多軌が笑顔で手を振っていた。



「タキ」

『おはよう』

「鈴木さん、体はもう…大丈夫?」

『うん。多軌さんもよかった…祟り、といてくれてありがとう』

「ううん、私は何も…夏目くんのおかげよ」

「いや。おれひとりじゃ出来ない所だったよ」



穏やかに言葉を交わし、多軌は肩の荷が下りたようにゆるやかに微笑んだ。



「ーーーー本当に、本当にありがとう」



心からの感謝を述べた多軌は笑った。



「私なんか役に立たないかもしれないけど、困った時はいつでも言って。力になりたいの」



夏目と雪野は多軌を見つめた。



「タキは…友人帳を宝物だって言ってくれた。それだけで充分だよ」

『うん。それにーーーー多軌さんみたいに、良く言ってくれた人ってはじめてだった…すごく、うれしかった』



目を丸くさせる多軌に雪野は嬉しそうに笑った。



『ありがとう多軌さん。「雪野」でいいよ』

「えっ…」

「おはよう夏目」

「うわっ。ちょび!」



多軌の背後の電柱から半分だけ姿を見せるちょびひげに夏目は驚き血の気を引かせた。



「えっ、いるの!?ちょびひげさん」

「ああ…まあ…」

『というか名前ってちょびひげなの?』



ーーーー人より雑音の多い日々

そのかわり何か得難

言葉に

声に

ひょっとしたら耳を澄ましているのはーーーー。





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