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2
翌日。あくび交じりに着替えを始めた雪野は、姿見に映った自分の姿に違和感をおぼえた。
『ん…ん?』
シャツのボタン留めを途中で中断した雪野は姿見に詰め寄り、目を見開いた。胸元に、鈴木、壱、という文字が見えたのだ。
『…!?』
慌てて自身の胸元を見るが、何もない。もう一度鏡を見つめるが、もう文字はない。
『(な、なんだったんだ…)』
「うわ!?」
錯覚かと目を擦っていた雪野は、夏目の声が聞こえ着替えを終えると部屋へ向かった。
『貴志くん?』
「おい夏目、何を騒いで…」
やって来た斑と共に部屋の中へと入る。
「『うわ!?ちょびひげ!』」
同じような反応をしていた夏目の前には、正座をするちょびひげを生やした妖が。
「ちんけな用心棒も無意味であります」
「ちんけ!?」
どうやら勝手に上がり込んだようだ。
「…で、そんな大物が何の用だ?」
「「人」の起こしていること故、「人」にお頼みしたく、夏目殿や鈴木殿ならと」
「人が起こしていること?」
どういうことかと夏目は続きを促す。
「先日、河原を歩いていると近くを通った人間の老婆が私を見て悲鳴をあげたのでございます」
その老婆もちょびひげ!と悲鳴をあげていた。
「ふと足元を見たところ、奇妙な陣があったのでございます」
「ーーーー陣?それってどういうことだ…」
「あの陣は我らにとって不吉であります。調べると人間の娘が描き歩いておるのです」
はっと雪野は思い出す。昨日空き地で陣を描いていた不思議な少女を。
「夏目殿、お二人で言ってそやつを止めてください」
「『え!?』」
「さあさあ、こちらでございます」
「わー!先生ー!」
「待たんかナマズ野郎!!」
慌ててふためく二人を無理矢理ちょびひげ妖は引っ張り、斑もそんな勝手なことをされては付いていくしかなかった。
「ーーーーおりました。あの娘です」
こっそり草の陰に隠れて見ると、少女が何かを枝で描いている様子がうかがえた。やはり昨日の少女だと雪野は目を瞬かせる。
「おい。ちょっと話を」
「きゃあ。夏目く…」
ビクリと肩を揺らした少女ははっと口を閉ざすと背を向けた。
「しまった。また名を呼んでしまった…」
「あっ。待ってくれ…」
ーーーーずざざっ.
「あ」
逃げ出してしまった少女を夏目が慌てて追いかけようとしたが、少女は滑り込んだ斑に躓き転んでしまった。
「先生…」
女の子相手になんてやり方をと、夏目と雪野は少女に駆け寄る。
「うう…」
はっと少女は斑に気づく。にやりと斑が笑った。
「…か……」
ーーーーぎゅうぅぅ.
「可愛いーーーーっ。可愛い猫ちゃん発見!!」
「「『何ぃーーーーーーーーーーーー!!?』」」
嬉しそうに斑を抱きしめた少女に夏目、雪野、ちょびひげ妖は声をそろえて驚愕。
「うう〜〜〜つるふかしてる〜〜〜」
「(ヒイーーーー)」
「ああやめてくれ。先生は誉められ慣れていないんだ」
怯える斑に夏目が少女を慌てて止めると、少女もはっと我に返った。
「ーーーーごめんなさい。可愛いものを見ると心が乱れてしまうの」
「(聞いたか夏目…聞いたか!?)」
「(ええいうるさいぞニャンコ先生)」
取り乱している斑を夏目は一喝する。
『ねえ、昨日も会ったよね』
「鈴木さ…ああもう、また…」
頭を抱える少女。ため息して、少女は帽子を脱ぎ払う。
「ーーーー私は五組の多軌透」
「『!』」
タキのコートの下は雪野と同じ制服。
「ーーーー同じ学校…!?だから名前を知っていたのか」
「ええ…それもあるけれど…お願い!力を貸して。命に関わることなの」
「え…」
「あなた達の!」
「『えーーーーーーーー!?』」
突然のカミングアウトに血の気を引かせて驚愕の声をあげた。
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