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「こっ…この中では一番アンタが怪しいじゃないか!晩餐の時に郷とモメてただろ!」

「言いがかりも大概にしろよオッサン!!あの程度で人殺しするハズねェだろ!!大体アンタこそ「まあまあお二人さん、落ち着いて。皆のアリバイを洗ってみればいいじゃない」



劉のその言葉にキーンとウッドリーの二人はとりあえず言い争いを止めた。



「ジーメンス郷が殺されたのは、部屋に下がってから…さらに正確に言えば、郷がベルで使用人を呼んでから、執事君達が部屋に着くまでの間。その時間のアリバイがあればいい」

「俺とアイリーンはビリヤード室にいた」

「はい」

「ボクもそこにいたよ」

「俺もです。あとフェルペスさんも」



未だに気絶中のフェルペスの分も伝える。大丈夫だろうか。



「ジーメンス郷が寝てから騒ぎが起きるまで、ずっとビリヤード室にいました。その間、席を外した人もいません」

「お前達は何をしてたんだ?」



伯爵の問いに劉は「ん?」と見る。



「我達はウッドリーさんと一緒にラウンジで飲んでたよ。ねぇ藍猫」



コクコクと無表情で頷く。余談だが、彼女は劉の妹だそうだ。血の繋がりはないそうなので、義妹ということになる。



「ああ!騒ぎがあるまでずっと一緒だった」

「確か12時過ぎにお酒がなくなったから、執事君に持ってきてもらったよね?」

「ワッ、ワタシ達使用人は5人皆で片付けしてましただよ!」

「大体、俺達はジーメンスがどの部屋に泊まってたかも知らなかったんだ!この広い屋敷でヤツを見つけるのだって、時間がかかるだろ!?」

「ということは…」



その先の言葉は、聞かなくても全員が察した。自分も含めて、全員の視線が向かう先は、伯爵とご令嬢。



「失礼ですが伯爵姉弟。その時間は何を?」

「『…!』」



劉が代表して、伯爵とご令嬢に尋ねる。



「確かにアリバイがないのは僕らだけだが…」

『私達には郷を殺す理由がないわ「え〜?ホントにィ?」

『…何?』



笑みを浮かべるグレイに、ご令嬢は眉根を寄せ睨みつける。子供でも美人がやると変に迫力が増して、思わずこちらまで背筋を伸ばす。



「確かに理由がないってことはないかもね」



グレイに同意しつつ、劉も続ける。



「人が人を殺す理由など、他人が思いもよらない理由がほとんどだ。人間の心理なんて、天才学者がどれだけ研究を重ねても他人ではわからないものだよ」



い、一理ある…。「それに」と劉は更に続ける。



「君達の会社、確かドイツに支社があったよね?その国の大手銀行役員である彼と、何か書類上でモメ事があったかもしれない。我々には預かり知らぬことだけどね」

「…………」



なぜかウッドリーが冷や汗をかいていたが、当の本人達は取り乱さず呆れた顔。



『私達のファントム社が、こげつきでもしていると?馬鹿げてる!』

「なくもない話でしょ。どんな大きな会社でも、一晩でなかったことになるご時世なんだしさ」

「まっ、待ってください!!」



遮ったのは庭師だった。



「難しいことはわかんないけど、でもっ、坊ちゃんとお嬢様がそんなことするワケ「フィニ」



涙ながらに言っていた庭師を伯爵が止めるように呼ぶ。



「いい、下がれ」



伯爵に言われ、庭師は渋々黙った。庭師の様子からして、伯爵は使用人に慕われているようだ。



「ーーーー…保険が欲しいな」

「保険?」



呟いたグレイへと顔を上げる。保険とは、どういうことだ?



「ボク達が生きて帰れる保険だよ」

「それは…どういう意味です?」

「だってココは、殺人犯が支配する屋敷なんだよ?そして嵐が止むまでボクらは出られない。嵐が止む前に全員、口封じされたらどうする?」



嫌な予想に全員が顔を青ざめる。なんだか彼の一言一言で、恐怖心が増幅している気がする。気のせいだろうが。



「あ、じゃあさー」



明るく提案したのは劉。



「監禁しちゃおーよ、監禁!」

「監禁!?」

「坊ちゃんとお嬢様を!?」

「だって怖いもん」



本当にそう思っているのだろうか…。なんだか、彼は殺そうにも殺せない気がしてならない。いや、それも気のせいだろうが。

セバスチャンは眉根を寄せていたが何も言わない。伯爵とご令嬢は顔を見合わせため息。



『別にかまわないわよ』

「それで気が済むなら好きにしろ」

「監禁するにしても、伯爵やダリア嬢の部屋はダメだね。貴族の部屋は、大体抜け道が造ってあるもんだし」



グレイの屋敷にもあるそうだ。ちなみに自分の家にはそんなものない。まず貴族じゃないし。



「では私共でお世話をしながら見張るというのは「それもダメ」



セバスチャンの申し出に劉が指でバツマークを作る。



「だって、君達は二人を逃がすかもしれないでしょ?」

「ってワケで、ゲストの中で誰かが一緒に泊まって見張るってのが、ベストだと思うケド」

「俺は絶対ごめんだ!アイリーンを一人にしておけるか!!」

「お…俺だって!!」

「我もヤダなあ」

「ボクだってヤだよ。でも誰かがやんないとさーーーー」



論争を軽く耳にしながらちらりと、伯爵とご令嬢の二人を見る。

状況を考えれば、犯人は二人のどちらかしかない。いや、もしかしたら共犯ということもーーーーでも、自分達しかアリバイがない人間がいない時に犯行を行うなんて、そんな三文小説のマヌケな犯人がするようなことをするだろうか。もし彼らが犯人だとして、自分達が不利になるとわかっていて、あのチープなトリックの種明かしをするだろうか?



「ーーーーってワケで」



ん?肩へと置かれた手に、考え込んでいた思考の底から我に返る。叩いたのは劉だった。なぜ、そんな笑顔でこちらを見る?



「よろしくね先生!」

「って、ええっ!?」



まさかの自分!?



「逃げないようにしっかり見張ってよ」

「そ…そんなぁー」



話にしっかり参加していればよかった…。見事に押し付けられてしまった。その時、あ、と何か思い当たる顔をしたグレイ。



「そうだ、ボク馬車にイイもの積んでるんだ。君、取ってきてくれる?」



指名されたシェフは部屋を出る。イイものとは、なんのことだろうか?



『話はまとまったようね』

「じゃ、これで解散だな。セバスチャン、皆様をお部屋にご案内しろ」

「かしこまりました。では、皆様ご案内致します。どうぞこちらへーーーー」





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