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その執事、収容





悲鳴と、騒ぎに廊下を走り、ジーメンスの部屋へと全員が集まった。なんの騒ぎなのか…なんと、ジーメンスが何者かによって殺害されたのだ。



「なんだ、さっきの声…うおッ」



騒ぎを聞きつけ、ファントムハイヴ邸のシェフと庭師も集まる。二人も室内の状況に驚愕する。



「こっ、この人死んじゃったんですか!?」

「はい…おそらく、胸の出血が致命傷ではないかと。暗いので確かではありませんがーーーー」

「オイ、なんかこの部屋暑くねェか?」



額の汗を拭いながらシェフが言う。言われてみれば、確かに…。今は寒い時期だから、部屋が暖かいのはおかしくないのだが…。



「そうですね。あらかじめ部屋は暖めておいたのですが、お寒かったのかもしれません」



意外と、寒がりだったのか。と、その時家令の…確か、タナカと呼ばれていたのを聞いた。彼が、伯爵とご令嬢を連れてきた。寝ていたところだからか、夜会とは違いシンプルな装いだ。



「一体なんの騒ぎだ?」

「坊ちゃん、お嬢様」

「『!!』」



伯爵とご令嬢が、椅子の上のジーメンスを見つける。



「ジーメンス郷…!」



子供にこの光景はショックだろうと思ったが、意外と二人は驚きはしつつも、狼狽えたり、顔色を悪くしたりなどはなかった。



「と…とにかく、ヤードが来るまで何も動かさずに「いや、死体はすぐに動かした方がいい」



「え?」とキーンが、遮りすぐさま言ったシェフを見る。



「こういう言い方ァしたかねェが、肉ってのは想像以上に傷みが早ェもんです。今すぐ火を消したって、暖炉の傍じゃあっという間ですぜ」

「傷むっ…て」

「アイリーン!」



よろめいたアイリーンをキーンが支える。



「彼の言う通りです」



こちらも控え目に同意する。一応、小説家として知識としては知っている。



「俺も専門家に検死してもらうまで、冷暗所に安置した方がいいと思います」

「では、ヤードの皆様がご到着になるまで地下室へ移動させましょう。フィニ、担架を」

「ハイ!」

「でも、しばらくヤードは来ないだろうね」

『え?』

「だって、この嵐だよ?」



窓の外を見ながら劉が言う。確かに、稀に見る凄まじい嵐だ。道は歩くのもやっとの状態だろう。



「ってことは、俺達もココから帰れないってことか!?」



焦ったようなウッドリーに「何を今更」と劉は続ける。



「いいじゃないですか。どうせ泊まる予定だったんだし」

「いい訳あるか!!こんな人殺しのあった所でーーーー」

「ーーーーそう、今まさにここは陸の孤島。つまり、殺人犯もまだ屋敷内にいる可能性が高い」



その言葉に周囲がざわつく。



「てゆーか」



そんな中、グレイが爆弾発言をした。



「フツーに考えてこの中の誰かが犯人なんじゃないの?」

「なっ…」



あまりにも衝撃が大きな言葉に、男性陣が黙っていなかった。


「なんで俺達が!?冗談じゃねぇ」

「そ、そうですよ!」

「第一俺達は初対面の人がほとんどですし…「あっ!」

「ディアス様?」



急に声を出したアイリーンは、難しそうな顔をして考え込む。と、すぐに口を開いた。



「私達がこの部屋の前に着いた時、扉には鍵がかかっていましたよね?」

「そういえばそうですだね」

「つまり誰かが窓から進入して、逃亡の時間稼ぎのために施錠して、再び窓から脱出したのではありませんか?」

「でもこの雨の中、外から入ってきたらさすがに足跡残るんじゃない?それにココ2階だし」



ガタガタ、とグレイは窓を引っ張る。



「鍵もかかってる」

「じゃあ、やっぱり誰かが廊下側から施錠して逃げたとしか…「それは不可能です」



キーンの言葉をきっぱりと遮ったセバスチャン。あまりにも、はっきりとした物言いには何か理由が?全員の視線が彼に向けられる。



「このお屋敷の鍵は全て建造当時のままの、ウォード錠を使用しております。複雑な細工ですので、職人でもない限りまず複製は不可能。さらにそれは、施錠された保管庫に納められており、執事である私が管理しておりますので持ち出しは出来ません」



「また」とセバスチャンは扉を示す。



「内側から簡易的に施錠出来るよう、ウォード錠と別にもう一つ掛け金を取り付けてございます。鍵の持ち出しが出来ない状況で、施錠が可能なのは内側からのみ。つまり」

「密室殺人ってことか」



密室殺人…!?セバスチャンの言葉を継いで言った劉の言葉に、ワンテンポ遅れてウッドリーは口を開いた。



「そんなバカな…小説じゃあるまいし!」

「確かに。こんな稚拙な密室劇を発表しては、苦情が来るだろうな」



眠いのか、退屈なのか。それとも…両方か?欠伸混じりに伯爵が言えば、「え?」とウッドリーが不思議そうに声を出す。



『先生もそう思われませんか?』

「えっ…あっ!!」



唐突にご令嬢から話を振られて戸惑うも、よくよく考えればすぐに気づいた。だてに小説家をしていない。



「そうか…確かにアレを使えば」

「どういうこと?」

「針と」

『糸よ』

「針と…」

「糸?」



伯爵とご令嬢の言葉にどういう意味だ?と周りは疑問符を浮かべている。



「セバスチャンの言う通り、このドアは内側からしか鍵がかけられないが、針と糸さえあれば外から簡単にかけられる」

『つまりこうよ。まず糸をつけた針を落とし、金の傍に刺し固定する。次に糸をドアの下にくぐらせてから外に出る』

「あとは糸が切れない様に慎重に糸を引き針を抜けば…落とし金が下りて施錠できる!」

『そのままドアの下の隙間から針と糸を回収すれば、証拠も残らない。針と糸なら始末も楽でしょうしね』

「推理小説では使い古された、実に単純でつまらんトリックだ。だが犯人は推理小説が書きたい訳じゃない。現実的な目くらましなど、こんなモノだろう」

「確かにそれで密室が成立するのはわかったけど…」

「それってつまり、誰にでも殺人が可能だったってことじゃ…」

「俺達は絶対違うぞ、他の誰かだ!!」

「俺だって違う!!」



そこでまた騒ぎ出す。まあ、犯人と疑われそうな状況…無実を訴えるのが普通だ。自分だって、犯人と疑われるのは嫌だ。





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