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「ご安心下さい。契約がある限り、必ずお命はお守り致しますーーーーただ、貴方がたが采配ミスをなされば、死なない程度に痛い目を見る事もある。ご存知だったでしょう?」



ぐっ…と二人は手を握りしめる。



「どんなゲームにもスリルがなくては」



悪魔な笑みを浮かべながら言ったセバスチャン。



「ゲームに貪欲なお二人なら、同じお考えかと思ったんですが」



はッ、と二人は嘲笑した。



『ええ。貪欲だからこその感想を述べさせていただくわ』

「吐き気がする程悪趣味な遊びだな。悪魔!」

「光栄です」



二人の空気をものともせず笑ってセバスチャンは言った。



「ゴホンッ。もういい」



そこでダリアはやけに咳が多いなと気付いた。



「あの後ジョーカーのテントで、僕とダリアの名前が書かれた手紙を見つけた。わかる範囲でだろうが、僕の爵位や屋敷の所在地、ダリアの以前の家族や軽い生い立ちまで書かれていた。差出人は「貴方」



は?と全員が突然声を出したウィリアムを見る。



「3センチメートル私の私有地に踏み込んでます」

「はっ!?」



シエルの足下には一直線に引かれた線があった。



「お互いに決めた住み分けも出来ないとは、犬が犬なら飼い主も飼い主ですね」



カチンッ、と来た飼い主。



『まっ、そういう貴方もテントに入るとき、犬の私有地に入っているのだけど』



ピク、とウィリアムが反応する。



『礼儀を知らない口うるさい奴がいて、話も出来ないわ』

「ゴホンッ。セバスチャン外へ出るぞ」

「は」



三人は外へと出る。



「ーーーーで、差出人の名前は笛吹の息子トム=v

「笛吹の息子トム=H」

『マザー・グースの登場人物よ。なんの意味があるかは知らないけど…』

「ケホッ。そして封蝋には馬の刻印とKのイニシャル」

「では私が見た物と一緒ですね。シールリングは普通、本人や家紋を象徴するモチーフと頭文字が彫られます」

「ああ」

『つまり、笛吹の息子トム≠ヘ、馬を冠する家紋を持つ者。馬がデザインされた家紋を持つ者は、勲爵士(ナイト)に叙勲されている者や軍人が多いわね』

「ゴホッ。一概にそうとは言えんが、慈善活動家となるとある程度の身分がなくては不可能だろう。紋章は全て紋章院に登録されている。ゴホンッ。これだけ条件が揃えば、登録数がどれだけ多かろうが、お前なら調べがつくはずだ」

「?」



セバスチャンもシエルの様子がおかしいことに眉根を寄せた。



「消えた子供。サーカス。笛吹の息子トム。そして僕とダリア」



ヒューッ、ヒューッ、というシエルの呼吸音にダリアはまさか、と昔を思い出した。



「バラバラのピースを繋ぐのは一体…ゴホッ!」

『シエル?大丈夫なの貴方』

「平気だ。とにかく一度街屋敷に戻っ…ゲホッ」

「坊ちゃん?「ゴホゴホッ。ガッ」

「坊ちゃん?どうしました?」

「ゴホゴホッ!ゲホガハッ…ッう゛ぇ゛ッ、エ゛ッ!!」

『シエル!!?』

「坊ちゃん!?」



咳込み続けているかと思えば嘔吐したシエルに二人は仰天する。



『ちょっと…しっかりして!』

「坊ちゃん!どうされたん「ゴホッゴボッ、うェ゛ッ…ゴホッ、ゲホッ!」

『シッ…ぐっ!』



シエルを支えていたダリアの口を、人の気配に気付いたセバスチャンがふさぐ。



「スマイル!?どうしたオイ」



やってきたのはドールだった。それからは急いでシエルを救護室に運んで先生に診てもらった。



「喘息だね」



セバスチャンとドールが驚く中、ダリアだけは驚くことなくシエルの手を握っていた。その様子を見ていたセバスチャンは先生に向き直る。



「喘息…ですか。3年程一緒に居りましたが、今日の様な症状は初めて見ました」

「3年も発作がないなら治ってるも同然だろうけどねーーーーどうだいリトル。姉の君ならわかるだろう?スマイル、昔は結構ひどい小児喘息だったんじゃないかい?」



その問いにダリアは小さくコク、と頷く。



「やっぱりね。急激な寒さやストレス…あと、風邪の時に突然ぶり返したりするから」



辛そうなシエルにダリアは眉尻を下げる。



「風邪なら1〜2回引いた事があるのですが、こんな風になった事は…どちらかと言うと、リトルの方が風邪引きなんですが。こう見えて割と頑丈でいらっしゃるので…」

「今回は色々な要因が重なったんだろう。大体、ウチの筋肉バカ共と外で行水したって?風邪ひいて当然だよ」



その言葉に目を丸くさせるダリアに、ドールが「ごめん」と謝ってきた。



「オレが無理矢理脱がせようとしたから濡れちゃって…ブラックから、リトルには黙ってて欲しいって頼まれてて、今更だけど」



セバスチャンのことが出て驚きながらもなんとか首を横に振って、ダリアはセバスチャンをキッと睨み上げる。セバスチャンはダリアの言いたいことがわかり、笑うだけで何も言わない。そこで、シエルがダリアには言うなと言っていた意味を理解する。喘息のことがあったからなのだと。

その時ばち、とシエルの目が開いた。



「あ、よかった。気がついたね」

「……」



目が覚めたことにホッと手を離す。



「…みず…」

「こちらをどうぞ」



セバスチャンが差し出した水を飲んでいると、先生が「スマイル」と呼ぶ。



「リトルに聞いたよ。君、昔は結構ひどい小児喘息だったんだってね。喘息は死ぬこともあるんだから、治ったと思ってても気をつけなきゃね」



そう言う先生の言葉が昔の光景に重なったシエルとダリア。



「熱と咳が治るまで絶対安静!いいね!さー、君らは帰った帰った。リトルも、傍にいたいだろうけどうつったら大変だから戻りな」

「リトル…」

『……』



心配そうにしながらダリアはドールに促されテントを後にした。



「ホント、オレのせいでスマイル悪かったな」



テントに戻って再び謝ってきたドールに首を横に笑って振る。



「オレ、やっぱりスマイルが心配だからテントに忍び込んでくる。リトルはどーする?」



自分はいい、と首を横に振る。



「何かあったら救護室にいるから来いよ!寂しくなったりしないか?」



可笑しそうに笑いながら頷くと、「暖かくして寝ろよ」と自分の毛布まで預けてきた。



「ホント、何かあればすぐ来いよ」



そう言って去っていくドールに手を振って見送っていたダリアは、すぐに笑顔を引っ込めた。



『セバスチャン』

「お呼びですか」



すぐに現れたセバスチャンを救護室の時同様に睨みつける。



『どうしてシエルが水を浴びた事教えなかったの』

「坊ちゃんがお嬢様には言うなとご命令なされたので」

『ええ、そこまでは私だって予想つくわよ。じゃあどーしてあいつに言うなとくぎを差したの?』



そう問いかけてきたダリアをセバスチャンは虚を突かれたように見る。



『シエルが貴方に命令したのは、貴方が私に言うなって事だったのじゃない?周りに口止めしろとまでは言ってないんじゃないの?』

「さあ…どうだったでしょう」



ーーーーパンッ.

はぐらかすように笑ったセバスチャンにダリアは平手をかました。



『…どーして、避けなかったのよ。貴方なら余裕で避けるなり止めるなり出来るでしょう』



叩いて苛立たしげな顔をするダリアを見てクス、とセバスチャンは笑いながら近づく。



「貴女がこれで気が済むのなら、私は拒否せず受け入れるだけですから」



思わず、ダリアは一歩、また一歩と下がる。



「それに、貴女は苦しむでしょう?大切な坊ちゃんの体調に気づけずにいたことに。苦しい思いをさせてしまっていることに」

『ッ…』

「それから」



テントの端まで来てしまい、もう下がることが出来なくなった。動けずにいたダリアに笑みを浮かべながら、セバスチャンはズイ、と顔を近づけた。



「私を、叩いてしまったことに」

『!』



悔しそうに何も言い返せないでいるダリアに小さく笑うと、セバスチャンはふわっと抱え上げ軽く口づけた。



『なにっ…』

「滅多にお目にかかる事が出来ませんからね。お嬢様のそんな顔は」

『は…?』

「私がその顔にさせてると思うと、うれしく思うのです」

『!?へ、変態っ、貴方それでも執事なの!?』

「これでも執事DEATH☆」

『真似しなくていいわよっ』

「それは申し訳ございません」



機嫌を直すように目元にキスをすると、セバスチャンはベッドにダリアを下ろす。丸め込まれたような腑に落ちないようなダリアだったが、今は命令が先だと考えるのを止めた。



『セバスチャン、命令よ』



見上げていたダリアを見て跪くセバスチャン。



『貴方は紋章院に行き、シールリングの男を割り出して来て。紋章院はロンドンに「イングランド紋章院(カレッジ・オブ・アームズ)」。エジンバラに「スッコトランド紋章院(ロード・オブ・ライアン)」があるわ』

「イングランド紋章院に、スッコトランド紋章院ですね」

『私も行きたいところだけど、いつあいつが戻ってくるかわからないからお願いね。それと、明日の朝あいつが私を探し出す前に、シエルを連れて脱出するわよ』

「御意、ご主人様」



立ち上がると「…そうだ」とセバスチャンはにこやかに笑いながら言った。



「坊ちゃんが女性と同衾した事は、エリザベス様には秘密にしておいて差し上げますのでご安心下さい」

『!!貴方最初から…っっ』



機嫌良くセバスチャンは去っていった。



『エリザベスにバレたら…私まで巻き込まれるじゃない』



言わないって言ってたけど、嘘つかないけど…と頭が痛くなったダリアはさっさと寝た。





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