「おい、そこで何してる」
振り向いた先には綱渡り担当のドールと呼ばれていた者が。
「セ」
ーーーーガッ!
「動くな」
セバスチャンを呼ぼうとしたシエルの口をふさいだドール。
「おーいドール〜〜」
ビクッ、と二人はダガーの声に身構える。
「ドール何してんだ?」
「スネーク!!」
「『!!』」
バラされる、と思っているとドールは離れた。
「毒蛇がウロツいてた」
「うわッ」
ドールが手につかむ蛇を見てダガーは顔を青ざめる。
「あんまり外をウロウロさせるなって言ってるだろう」
「おまッ、ちゃんと部屋入れとけよッ」
「『?』」
二人はドールの言動に顔を見合わせる。
「……」
「ついうっかりであの世行きはゴメンだぜ」
それから二人が去っていくのが足音でわかった。すると、くるっとドールがこちらを振り向いた。
「こっちだ」
「『!?』」
「急げ」
「『!?。?』」
何がなんだかわからないままに、二人はドールに引っ張られるがままついていく。
「そのロープに触るなよ」
しばらくしゃがんだり立ったりを繰り返し進んでいくと、一軍テントから離れた場所に出た。
「ここまで来れば大丈夫だ」
「な、なんで助けて…コホッ」
「まだわからないのか」
しゅっ、とドールは花飾りのリボンを解く。
「オレだよオレ!」
「あ……」
思わず声を出しそうになったダリアは手で口をおさえる。
「ソバカス…!?」
花飾りをとって見せたのはソバカスだった。
「男で…その格好…!?」
「お前ら失礼なヤツらだな!」
ドン引きしている二人の手を取るとソバカス、もといドールは手を引く。
「れっきとした乙女だっての。ホレ」
ーーーーふにゅ.
「『……!!?』」
胸を触らせてきたドールから一瞬にして距離をとる。
「ついでに下もたしかめてみるか?」
「結構ですッ!!」
即答だった。
「で?お前らどうしてあんな所にいたんだよ?」
咳き込んだシエルはドールを見る。
「毒蛇の話、ジョーカーの兄貴に聞いてんだろ?」
「それは…」
とりあえずここは物取りを装うしかないか、というわけで。
「ごめんなさい!!今日は何も盗んだりしてません、本当ですっ。どうかここから追い出さないでくださいっ」
「今日はって、お前ッ」
「僕達、実はページボーイとメイドになる前は貧民街(イーストエンド)にいて…生きていくためなら、なんでもしてました。いけないってわかってるのにその時の悪いクセが抜けなくて、前のお屋敷もそれがバレて…」
『(まあ迫真の演技だこと)』
「僕…っここを追い出されたらまた貧民街に戻るしかっ…」
『(…さあ、どうなる?)』
「(少し演技がクサすぎたか?)」
二人が心配していると、ドールがダリアに視線を向けた。
「リトルもか?」
「違います。リトルは僕を止めようとしただけで…」
「……本当に、何も盗ってねーんだな?」
「ハイ!神に誓って」
ドールはため息をついて頭に手をやる。
「しょーがねーなぁ」
「じ、じゃあ」
「オレもお前に借りがあるしな」
「ありがとうございます!!」
「誰だって知られたくねーことの一つや二つあるモンだろ。なのに、昼間はお前に悪ーことしちまったし」
『?』
昼間のことを知らないダリアは、視線を鋭くさせているシエルを不思議そうに見ていた。
「だから皆には黙っててやるよ。これでおあいこな」
仕方ないな、というようにドールは笑って言った。
「でももう絶対忍び込んだりすんじゃねーぞ!」
「ハイ」
隣でダリアも頷く。
「ゴホッ。あの…一つ質問していいですか?一軍のあなたが何故、僕達と同じテントに?」
「あーー。オレ、一人部屋好きじゃねーんだ」
声を落としてドールは言う。
「誰かと一緒の方が、よく眠れるし」
「なあ」と不安そうにドールはこちらを見た。
「オレが一軍でも同室でいてくれるよな?」
「はいもちろん」
明るく言えば、ドールは「リトルも?」と見てきたので、ダリアは笑いながら頷く。
「よかった。じゃあここでのことはオレ達だけの秘密な」
「はい」
手を取り合った三人。
『(ーーーーとは言っても、彼女が誰にも話さないという確証はどこにもない)』
二人は去っていくドールを笑顔で見送る。
『(人間は平気で嘘をつく)』
いなくなったのを見届けてダリアは笑顔を引っ込めると、隣で同じく笑顔を消していたシエルを見た。
『(もちろん…私もシエルも)』
*
「坊ちゃん、お嬢様」
二人はセバスチャンがいるテントにやってきた。その表情は明らかに怒っている。
「貴様…僕らがまだあそこに残っていると知ってて、毒蛇を開放したな?」
きょとんとしていたセバスチャンは笑った。
「ええ。一軍より早く戻り蛇を開放せよ、とのご命令でしたので。それが何か?」
睨みつけている二人にクスクスと笑う。
「どうしたのです。そんな顔をして」
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