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「優柔不断な男だな!!」

「申し訳ありません私とした事が…」



もう二人からしたらハラハラものだった。



「それよりも、侯爵婦人にご覧になって頂きたいものがあったのを忘れておりました」

「?」

「御婦人をご案内する様な所ではないのですが…馬屋へ参りましょう」







「いかがでしょうか侯爵婦人。主人の愛馬にと、見事な青駒の毛並みの馬を迎えまして、以前より侯爵夫人にご覧に入れたいと思っておりました」

「ほう…たしかに良い馬だ。腰もしっかりして面がまえも良い」



感心したように言うと「そうだ」とフランシスはシエルを見た。



「シエル。これから私とハンティンに出ないか?」

「!?叔母様とですか?」

「娘の夫になる男がどれ程の男か見る良い機会だ。それとも、少女の様に華奢なファントムハイヴ伯爵には狩猟≠ヘキツすぎるか?」

「いいでしょう」



ムッ、としながらシエルが承諾したことに、ダリアはセバスチャンを見た。



『セバスチャン準備を』

「は」

「勝負だシエル!」



火花を散らす二人に「白熱しそう…」とダリアは遠巻きに見ていた。それからフランシスにも馬を用意し、森へと向かったシエル達。エリザベスはシエルの馬にのり、ダリアも馬に乗るが手綱は先を歩くセバスチャンが。実はダリアは馬に乗るのが苦手なのだ。



「セバスチャン」

「は」



くん、とセバスチャンはニオイを嗅ぎ始めた。



「…坊ちゃん、こちらです」



それを見てフランシスは言う。



「お前達の執事は犬も兼用か?」

「そのようなものですよ、あれは」



それから更に進み、ある程度行った辺りでセバスチャンは足を止めた。



「では、このあたりで始めさせて頂きます」

『それじゃあルールを。左右25メートル以内のお互いのテリトリーを守る事と、規定の高さ以下の鳥は撃たない事…でいいかしら?』

「ああ」

「では只今よりゲームをスタート致します」



セバスチャンは懐中時計を開く。



「制限時間は3時間です」

「ではまたなシエル!」



かっこよく馬を操りフランシスは去っていった……のを見て、セバスチャンがダリアに手をかしながら一言。



「お嬢様も侯爵婦人を見習って下さい」

『努力するわよ』



セバスチャンでは嫌味にしか聞こえないそれに、憎たらしげに睨みながらダリアは馬から下りる。そんなやりとりを見ていたエリザベスに困ったようにシエルは言った。



「リジー、お前も降りろ。これじゃ狩りができん」

「えーっ。せっかく一緒に来たのにぃ〜〜〜」



その時遠くの方でした銃声をセバスチャンが聞き取った。



「1ー0」

「!」



呟いたセバスチャンの言葉にいち早くシエルが反応した。



「さすが侯爵夫人。早速1羽仕留められた様です。どうやら、坊ちゃんでも手強いお相手となりそうですね?」



その言葉にシエルが無反応なわけがなかった。

ーーーードオン!!



「きゃあっ!?」



いきなりシエルは空に向かって銃を放った。直後落ちてきたのは野鳥。



「叔母様には悪いが、僕はゲームと名のつくもので負ける気はしないな」



その言葉にダリアは愉快そうに笑った。



「リジー、危ないからそこでダリアと一緒にいろ。いいな」



闘志を燃やしながら、張り切ったように真っ直ぐ前を見ながら去っていくシエルにエリザベスは頬を染めた。



『シエルー』



ん?とシエルはダリアに振り向く。



『負けたりしたら承知しないわよ』



笑いながらダリアが言えば、シエルは笑い返した。



「ーーーーよかった」



呟いたエリザベスをダリアとセバスチャンが見る。



「シエルもダリア姉様も、少し元気出たみたいで」



柔らかく微笑んだエリザベスにダリアは目を丸くする。



「アン叔母様が一番可愛がってたの、シエルとダリア姉様だったから心配してたの」

『そう…だったの…』



ダリアは思わず視線をそらす。それをセバスチャンは横目に見ていたが、エリザベスは気づかずに続ける。



「私、シエルにもダリア姉様にも、もう辛い想いをして欲しくない。いつも私なりのやり方で励まそうとするんだけど、全然うまくいかないわね」

『…』



数々のあれは励ましだったのか?、とダリアは話を聞きながら苦い顔をしていた。



「いつもやり過ぎて怒られちゃうし」



まじまじとダリアはエリザベスを見ていた。フ…と笑い、セバスチャンはエリザベスの前に笑いかけながら跪いた。



「貴女様のそのお優しいお心遣い、きっと主人達も感じていらっしゃると思いますよ」



チラとこちらを見たセバスチャンに溜息。



『…まあ、確かに貴女はムチャクチャな事やるけれど…それが私やシエルには、落ち着く時間でもあるのよ』



少し微笑みながらダリアが言えば、エリザベスは感激に瞳をうるわせ抱きついた。



「ダリア姉様ーーーー∨」

『!ちょっ、苦し…ッ』

「セバスチャンもありがとう。優しいのね」

「勿体無いお言葉です」



その時遠くの方で何発か銃声が。



「5ー4。どうやらゲームは白熱している様です。私達もお二人を応援致しましょう」







「侯爵夫人はキジ10羽、キツネ2匹、ウサギ3羽の計15匹。坊ちゃんはキジ11羽、キツネ3匹、ウサギ1匹計15匹…」

『…同点引き分け、ね』

「という事でよろしいですか?」



ランチをその場でとりながら結果発表。本日のランチはステーキ・アンド・キドニーパイと、サーモンサンドウィッチ。



「気にくわん!」



結果を聞いたフランシスが不機嫌そうに言う。



「私はハッキリしないのは好きじゃない」

「奇遇ですね叔母様。僕も同じ意見です」



再び火花を散らすシエルとフランシス。



「では、勝敗は午後の部で…という事で」

「いいだろう」

「問題ない」

『…。でも、狩場を荒らしすぎじゃない?』



凄まじい気迫とぶつかり合う火花にダリアは何も言えず話を変えた。



「そうだな…午後は場所を変える」

「ああ…大丈夫ですよ侯爵夫人」



フランシスの言葉にセバスチャンはすん、と匂いを嗅いだ。



「まだまだ大物が隠れております」



言いながらセバスチャンはフランシスのグラスにワインを注ぐ。



「じゃあルールも決まったことだし、食べましょっ」



エリザベスがそう明るく言った時、ダリアにフッと影がかかった。



『え?』



振り向き見上げた先には、見るからにおなかを空かせた大熊がいた。




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